闘技場の騒動でアーセルム号で手に入れた(というよりも預かった)紅い箱がラーギィによって奪われた。奪われたこと自体よりも気弱な印象な彼がそういう行動をとったことが驚きの大半だった。
(...やっぱり気のせいじゃなかったのかな...)
ノードポリカを出れば山脈がそびえている。その山脈を通る洞窟は準備なしでは抜けられない、と知って一同は急いでその足取りを追う。
(...ラーギィ...らーぎぃ...Regaey...)
なまえは彼を初めて見たときの違和感が未だ離れないままでいた。戦闘狂が戦闘に参加せず一番後ろで控え、難しい顔をして、一言も発しない。いつもの彼女らしからぬ行動だがそれに周りが気付ける余裕はないに等しかった。
(そもそもなんで会ったことあるような感じがしたんだろ)
(こう、感覚的じゃなくて、どちらかというと、本能的な)
(でも私はただ生きてるただの人間で、本能より理性が勝っている。...はず)
(じゃあ、私の本能って?戦うこと?それもそう。)
(...私じゃない、人間じゃない本能)
(...。...もしかして)
⇒(後戻りはできない)
「...あ。」
ずっと黙っていたなまえの第一声だった。それを聞いて前を歩くみんなはなまえを見る。
「どうしたのなまえちゃん」
一番近くにいたレイヴンが聞く。
「いや、私、ノードポリカ出てから戦ってないな、と」
そこにはさっきまで難しい顔をした彼女は消えていた。
「よし、じゃあおっさんと変わろうか」
「勝手に決めるなよ。じゃあ洞窟入ったらなまえ、リタ、カロル、んでおっさん」
「そりゃないよ青年...」
洞窟?なまえは我に返って目の前の光景を見る。そこには確かに先の見えない入り口があった。なまえはその入り口に見覚えがあった。この間は"出口"だったのだ。
エステルが砂漠に行くと言ったときから分かっていた。なんたってなまえの故郷は、砂漠の街なのだから。