歯車を回しながら何重もの仕掛けを抜けた先に、ようやく空の青が見えた。魔導器がある塔の屋上にはこの塔の持ち主、バルボスが立っていた。彼が持っている剣、普通の剣と違いエアルを使うそれはどちらかというと魔導器に部類されるのだろう。
「もしかして、あの剣にはまってる魔核、水道魔導器の...!」
「ああ、間違いない...」
証拠にその剣にはユーリが探していた魔核が装着されていた。
「バルボス、ここまでです。潔く縛に就きなさい!」
「まもなく騎士団も来る。これ以上の抵抗は無駄だ!」
「そうそう、ここで捕まっておけばこれ以上痛い目見なくてすむんだよ」
「もうあんたは終わりよ!」
しかしバルボスに負ける気はないらしい。それを示すように水道魔導器のはめられた剣を掲げた。
「十年の歳月を費やしたこの大楼閣ガスファロストがあれば、ワシの野望は潰えぬ!あの男と帝国を利用して作り上げたこの魔導器があればな!」
「"あの男"って...」
バルボスの口にした"あの男"とは誰なのか眉間に皺を寄せてなまえは考える。が、検討がつくはずがなかった。
バルボスが剣に力を込めれば辺りはその力に耐えられずに煙を上げて爆発する。今いる足場も危ないとユーリたちは別の場所に飛び移る。
「下町の魔核をくだらねえことに使いやがって」
下町にとっては貴重な魔核。それを個のため野望のために使われることにユーリは少なからず怒りを覚えた。
ユーリたちを追ってくるバルボス。彼はこの塔も剣もくだらなくないと言い張った。ギルドの頂点に君臨したのちには帝国さえもその手中に収めようというのだ。
「手始めに失せろ!ハエども!!」
再び剣に力を込めるとまた爆発を引き起こした。先程よりも至近距離での爆発に誰もが危機感を覚えた。素直に"あれは危険だ"と感じ取った。
「やばいっていうか...反則でしょ」
「圧倒的ね」
剣は高くに掲げられた。そして再び力をためているが、今までのものとは比べ物にならない力の流れが目で見てとれた。誰もがその攻撃の予想もできない威力に身構えたときであった。
「伏せろ」
⇒貴方なんかに解らないでしょう、こんな報われない痛み
声がした。そちらを向けばケーブ・モック大森林で魔物の大群から助けてくれた名前の知らない彼が立っていた。手にはあの剣。その剣から放たれた別の力により、バルボスの剣は音をたてて崩れていった。
「これ以上、ナイトハルトの手を煩わせるわけにはいかない」
そう言い残し去っていく男。その声は誰にも届かず、自分に言い聞かせているようにも見えた。