暗い地下水道を抜けるとひと気の少ない酒場に出た。どうやらここが忍び込もうとした酒場のようだ。奥には階段があり、それを登ればダングレストの夕日が見えた。その元ではいつ戦争が起こってもおかしくないほど至近でギルドと騎士が睨み合っていた。それを文字通り高みの見物していたのが、この一連の事件の黒幕...


「悪党が揃って特等席を独占か?いいご身分だな」

「その、とっておきの舞台を邪魔するバカはどこのどいつだ?」


酒場の上にはテラスが存在していた。そこにいたのはユーリが追っていた魔核ドロボウの黒幕、"紅の絆傭兵団"の首領バルボスが椅子に深く腰をかけ、先日屋敷で取り逃がしてしまったラゴウが一歩後ろに立っていた。


「ほう、船で会った小僧どもか」


横目でユーリたちを見るとそう言った。その振る舞いからも彼の強さが伝わってくるような気がした。確かに彼は悪党だ。しかしそばにいるラゴウとの違いがはっきりとみえる、器の大きさが。さすがは五大ギルド、といったところだろうか。


「この一連の騒動は、あなた方の仕業だったんですね」


エステルが旅をしてきた者として、一国の姫としてラゴウたちを強い眼差しで見る。がバルボスはそれに動じない。それどころか捕まる気がないのか大口をたたいてきた。


「それがどうした。所詮貴様らにワシを捕まえることはできまい」

「はあ、どういう理屈よ」

「悪人は普段から負けたときのことを考えてないってことだね」

「なら、やっぱりユーリも悪人だ」

「おう、極悪人だな」

「ガキが吠えおって...」


呆れ半分のバルボス。そのときどこからか"紅の絆傭兵団"の下っ端がぞろぞろと現れてくる。そしてユーリたちを取り囲んでいく。ユーリはそれに動じることなく剣を構えた。


「手向かうか?前に言ったはずだ、次は容赦しないと」

「その方が暴れがいあるってもんだ」


むしろこれから起こるであろう戦闘にわくわくしているようにも見えた。いつもそう、彼はまどろっこしい理屈よりも直観で動いていたいのだ。ユーリに続くようにみんなそれぞれ武器を構えたときだった。緊迫したギルドと騎士の間に合図のような大きな音が響いた。


「バカどもめ、動いたか!これで邪魔なドンも騎士団もぼろぼろに成り果てるぞ!」

「まさか、ユニオンを壊して、ドンを消すために...!」

「騎士団がボロボロになったら、誰が帝国を守るんです?」

「...。...ああ、そういう魂胆」


状況を整理して結論に達したなまえはそれに少しほど呆れを覚えた。同時に怒りも覚えた彼女は武器を強く握って悪党たちを睨んでやる。


「騎士団弱体化につけこんで評議会が帝国を乗っ取ろうってことだね」

「んで、"紅の絆傭兵団"が"天を射る矢"を抑えてユニオンに君臨する、と」

「なんてこと...」

「今さら知ってどうなる?どうあがいたところで、戦いは止まらない!」

「そう思ってられるのも今のうち、ってことですよ」


怒りがこもっていたはずのなまえだったがラゴウの屋敷のときのように彼女を取り巻く空気の温度は下がっていなかった。むしろ上昇して陽気日和だった。
どういう意味だ小娘!とバルボスがなまえを睨んだとき、ギルドと騎士の緊迫を引き裂く嘶きが響いた。




⇒戦場のポートレート




「ったく、遅刻だぜ」


ユーリが呆れ少々、でもどこか嬉しそうに呟いた。
そこにはヨーデル陛下から受け取った手紙を掲げる親友フレンの姿があった。

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