目の前に広がる広間。見上げれば見慣れない形の魔導器が見えた。先程通った泉のしたのようだ。泉の水はその魔導器によって操られこの空間を作り出したらしい。
「水が浮いてる...」
「あの魔導器の仕業みたいだな...」
「たぶん、この異常も...」
「...あれ、エフミドやカプワ・ノールの子に似てる...」
「壊れてるのかな...?」
「魔導器が壊れたらエアル供給の機能は止まるの。こんな風には絶対ならない」
そうしている間にもエアルは出続けて体を蝕んでいく。一人まっすぐに立ち続けているなまえだったが辺りに響いたまがまがしい魔物の声に誰よりも早く反応した。
「なに...魔物の声、ですか...?」
目を疑った。広間の中央、人が立っているよりも下に結界で閉じ込められていたのは、今までの魔物とは比べ物にならないほど大きい魔物。
「なにこれ...」
「おい、結界が破れるぞ...!」
「大丈夫、あれは魔物を閉じ込めておくための逆結界よ。...だから、簡単には出てこられないわ」
するとリタは走りだす。大切な魔導器を元に戻そうとしたのだ。しかしこの場に先に到着して結界を作ったであろう先客の声に妨げられてしまう。
「俺様たちの優しい忠告を無視したのはどこのどいつだ?」
後から乗りこんできたユーリたちの反対側には、"魔狩りの剣"がいた。入り口で忠告をした少女にフードを目深に被った男に人に先程見事なフェイタルストライクを披露した首領の男。
「ごめんなさい。私たち、言いつけは破るためのものだって教わってきたんです」
「ふん、なるほど...ってなんだ、クビになったカロル君もいるじゃねえか。エアルに酔ってるのか。そっちはかなり濃いようだね」
「ちょうどいい。そのまま大人しくしていろ。こちらの用事は、このケダモノだけだ」
首領の男、クリントはエアルに酔っている彼らにそう言った。"魔狩りの剣"がここに来た理由は初めからあの魔物を倒すためだったのだと直観した。
その時、結界の下の魔物の声とは違う甲高い声が響いた。聞いたことがある、そう、ラゴウの屋敷で天候を変えられる魔導器を壊したあの竜使いのような。
「...なっ」
「またあいつ!」
呆気にとられているうちに竜使いは泉の上から一直線に魔導器を攻撃する。その瞬間、魔物を捕らえていた結界が消え、異常な濃度のエアルもなくなっていた。やはりこの一連の異常はあの魔導器が原因だったようだ。
その竜使いは"魔狩りの剣"に攻撃を受けていた。そこまではよかった。問題は、彼らが捕らえたであろう大きな魔物が暴れ出したことだろう。
「やべ...足震えてら」
「こんな魔物ははじめてです...」
「じゃあみんなは休憩してる?」
前に出たのはやはりなまえ。握った武器からは既に光の剣が見えた。
いつもの笑顔ななまえと雰囲気が違った。だがラゴウの屋敷のように怒りを剥きだした感情ではなく、強い眼差しで戦う決意をしたなまえがいた。
⇒失えぬものが増えすぎた
「あ、あんた、あれに一人で挑もうっての...?」
「なまえ、恐くないんですか?」
「うーん、恐くはないかな...。負けるかもとは思うけど、元気なの私だけだし、みんな守りたいし...」
「...なまえだけにいい格好させないっての。...なあラピード」
「ワン!」
「...。...じゃあ行きましょうか!」