さっきまで笑顔を絶やしていなかったなまえを取り巻く空気が変わった。よく気温が五度下がった、とか例えられるがまさにそれだ。普段のなまえからは考えられない怒りや憎しみに近い表情をしていた。
「はて、これはどうしたことか、おいしい餌が増えていますね」
目の前に立ちはだかるのは鉄格子。父を追って帝都の壁を殴ったあの日以来だ。しかしあのときよりも大きく頑丈に見えた。
その向こう側にはこの屋敷の持ち主であり評議会の一員であるラゴウ。
「あんたがラゴウさん?随分と胸糞悪い趣味をお持ちじゃねえか」
「趣味?ああ、地下室のことですか」
いままで通ってきた部屋にいたのは魔物。リブガロを飼いならしていたようにここでほかの魔物も飼っているのだ。そこに人を連れ込み彼らを戦わせて、楽しんでいる。
「これは私のような高雅なものにしか理解できない楽しみなのですよ」
それを彼は平然と言ってのけた。「評議会の小心どもは私を楽しませてくれない」「その退屈を平民で紛らわすのは選ばれた者の特権でしょう」。なまえは握っていた武器を強く握りしめる。
「さて、リブガロを連れ帰ってくるとしますか。これだけ獲物が増えたなら、面白い見世物になります。ま、それまで生きてれば、ですが」
「リブガロくんはここには帰ってこないよ」
「なにを馬鹿なことを...」
「こんな臭くて狭いところより、空気がおいしくて雨が降ってるところがいいってさ」
「まさか、リブガロを...!」
「そんなことより、ラゴウさん...」
強く握っていた武器から勢いよく光の剣が発生する。なまえは両手で持って頭の上までゆっくり振り上げた。すごくいい笑顔だったと後の仲間たちは語った。
「私ともっと楽しいことして退屈しのぎしませんか!!」
⇒はじめから分かりきってたことじゃないですか
思い切り振り降ろされた光の剣は鉄格子を簡単に切り倒す。倒れた鉄格子は土煙をたてその向こうには困惑と恐怖に駆られたラゴウが尻もちをついていた。
「な、何をするんですか!!」
「鉄格子なんて帝都の牢屋でもう懲りてるんで」
「だ、誰か!この者たちを捕らえなさい!!」
「もう一回切りましょうか!!」
そういったなまえはまた剣を振り上げる。が、その腕を掴んだのはユーリだった。急に掴まれ反射的にそちらを見たなまえ。それを見たラゴウは一目差に逃げ出す。
「っ!」
「おいなまえ落ち着けって」
ラゴウの姿が見えなくなりなまえは剣を降ろす。光の剣はもう消えていた。そして二回、大きく深呼吸して顔を上げた。
「天候を操る魔導器を探すんですね」
「ああ。まずは証拠だ。」
「暴れるのはそのあと、だね」
「なまえも落ち着いたな。...行くぞ!」