どうやらなまえの嫌いな雨が続いているのには自然現象では言い表せないような事情が絡んでいるようだった。たとえば人工的にこのような気候にしている、とか。
そういえばリブガロは雨の日が好きだったと思いだした。雨で得するのはリブガロぐらい。そのリブガロが飼われたものなのだとあの紫の羽織のおじさんは言っていた。だとすると得をするのはリブガロの飼い主...
「何考え込んでんだよ。らしくない」
「いやね、雨が降らせられるんだったら逆に雨を止ますこともできるんじゃないかって」
「そんなことのために魔導器使おうとするんだったら私、怒るわよ」
「たとえ話だよ、本気にしないでってばリタ」
人工的に雨を降らせられることができるのはきっと魔導器ぐらい。結界になったり力をくれたり生活には欠かせないものすごい力の持ち主なのだから。実際、これから向かうあのリブガロの飼い主であるラゴウ執政官の屋敷にそれらしきものが運び込まれたらしいのだ。
「何度見てもおっきな屋敷だね。評議会のお役人ってそんなに偉いの?」
「評議会は皇帝を政治面で補佐する機関であり、貴族の有権者により構成されている、です」
「言わば、皇帝の代理人ってわけね」
「へえ、そうなんだ」
「んー、結構難しいんだねお城の中も」
ユーリにとってはそんなこと関係ないのかもしれない。入れてもらえないならどんな手段を使っても入ってやると逆にやる気になっているのかもしれない。もしくはフレンをはじめとする騎士が正規に屋敷に入るため自ら手を汚そうとしているのか。彼はいつもそういうことを話してくれない、だから本当のところはなまえにもわからなかった。
「んで、どうやって入ろうか?」
「裏口はどうです?」
「残念、外壁に囲まれててあそこを通らにゃ入れんのよね」
あれ、前にもこんなことあったと思い出しながらもびっくりして肩が跳ねた。みんなで一斉に後ろを振り返ればそこには男の人。なまえには面識があった。
「あ、お、おじさ...!」
「こんな所で騒いだら見つかっちゃうよ、リブガロのお姉ちゃん」
心拍数も上がったままで指を指しながら声を出したらなまえも驚くほど大きな声が出た。が、それは彼の手に塞がれて最大音量までには達しなかった。
「なんだよ、おっさんなまえと知り合いだったのかよ」
「なーに、リブガロの角一緒に取りに行った仲よ。なー?」
お茶目に笑って見せられたってなまえにとってはそれどころではない。酸素、彼女は酸素を全力で欲していた。しかし目の前でニコニコしている彼にはどうやら伝わっていない。なまえは眉間に皺を寄せ始めた。するとようやく伝わったのか彼が手を離してくれる。手が離された瞬間肺いっぱいに酸素を取り込んだなまえにさきほどの眉間の皺はなく、いつも通りの笑顔をみせた。
「まあ、確かに一緒には戦ってくれはしたけど...」
「ほらほら、でしょ?それにそっちのかっこいい兄ちゃんとも会ってるし?」
「...ああ、ほらユーリも一緒にいたでしょ?」
「いや、違う、俺を巻きこむな」
「おいおい、ひどいじゃないの。お城の牢屋で仲良くしたじゃないユーリ・ローウェル君よぉ」
「名乗った覚えはねえぞ」
するとおじさんは紙を一枚見せてくれた。最近よく目にするユーリの似顔絵付きの手配書だ。それにしてもよくその手配書でユーリ本人を見つけることができるものだ。なまえにはあの手配書でユーリを判別することができない。
「ユーリは有名人だからね。で、おじさんの名前は?」
「ん?そうだな...。...とりあえずレイヴンで」
「とりあえずって...どんだけふざけたやつなのよ」
「んじゃレイヴンさん、達者で暮らせよ」
「つれないこと言わないの。屋敷に入りたいんでしょ?ま、おっさんに任せときなって」
とりあえずレイヴンと名乗ったおじさんは一人で屋敷の方に走って行ってしまった。言うより行動のおじさんは誰が止めるよりも先に走って行ってしまったのだ。最後まで謎が多いおじさんだ。
⇒正直こういう展開を待ってました
と思っていたらおじさんは走ってこちらに戻ってきた。リタがなんで戻って来たのよと不機嫌に言うがそれさえも彼には聞こえていないようだ。そしてさっき口をふさいだなまえ本人の前で止まる。
「おっさんとしては屋敷に入れてあげるからご褒美としてお姉ちゃんの名前が知りたいなーって」
「はぁ?なに言ってんのこのおっさん」
「名前?私、なまえっていいます」
「って簡単に答えちゃってるし」
「なまえちゃんね!それ聞いておっさんなんだかやる気出てきた!」
「じゃあさっさと行って来いっておっさん」
やっぱり彼は謎の多いおじさんだった。