港町カプワ・ノール。天候は生憎の雨、連日降り続いているらしいこの雨のせいで反対側の港カプワ・トリムヘの船が出ず、更には船で海に出ることすら出来ないらしい。それもこれも全部この地を統治している者の命令なのだという。


「うーん、雨はあんまり好きじゃない...」


その雨模様の空の下、なまえはカプワ・ノールに入ることなく近くの森にいる。いや街には入った、入ったのだがそこで傷を負った夫婦に出くわした。聞けば彼らにはお金がいるらしいのだが、それとなまえが森にいる理由に関係があるのかと聞かれれば、大ありだと彼女は声を大にして言うだろう。


「...いた...!」


少し進めば彼女の先には少し大きめの魔物が見える。リブガロと呼ばれる魔物はこのカプワ・ノール周辺にはいるはずのない魔物だ。そしてなまえと違いどちらかと言えば雨の日を好む魔物でもある。
初めてこの港に来た時に違和感を感じていた。好きではない雨が止まず、街を回れば役人と呼ばれる柄の悪そうな人が口にする"リブガロ"の名前、街の人がそれも漁を生業としている一般人が普通ではありえない大けがをおっている。


「あのリブガロくんを倒せば、万事解決...」

「したらいいのにねぇ」

「?!」


元凶であるリブガロに挑もうと武器を手に持ち構えた所で、さっきまで誰の気配もしなかった背後から声がした。びっくりして慌てて振り返ればそこにいたのは男の人。面識が、ないとはいいきれない。似た人に帝都の牢屋で合っているから。
高い位置で髪を一つで結っていて、手を当てている顎には無精髭、霧のかかった雨の日にもよく映える紫の羽織の、おじさん。


「あのリブガロくんはね、どこぞの悪ーい役人さんが飼ってる魔物なわけ」

「...あの子飼われてるんですか?」

「そ、悪ーい役人さんはリブガロくんと街の人戦わせて楽しんでるの」

「ああ、だからリブガロくんの角が...」


彼に言われてリブガロをよく見れば体の所々には街の人と争ったであろう傷があった。浅い傷があれば大きい傷も見えた。だが彼と戦うことで傷つく街の人がいるのも確か。リブガロも街の人も悪くないのに戦ってる。どちらも生きるために戦ってるはずなのに、それ自体が誰かによって計られていたことだったとしたなら、それはとても悲しいことではないのか。


「じゃあ角をもらって帰りましょう」

「リブガロくんは?」

「自分に環境を合わせる人と違って、魔物は環境に自分を合わせるものですから大丈夫ですよ」

「そんなもんなのかねぇ」

「そう教わりましたから」


方法も決まって改めて武器を構える。だが構えただけでなまえは踏み込む様子を見せない。


「おじさん手伝ってくれないんですか?」

「なんでおっさんが手伝わなきゃなわけ?」

「だって、こんな魔物ばっかりの場所に、わざわざそんなこと教えてくれるために来たわけじゃないですよね?」

「...。...まあおっさんも一応戦えるけど?」

「決まりですね」




⇒何も知らない者は何も恐れない




ずぶ濡れになってカプワ・ノールに帰ってみればユーリにエステルにカロルにリタにこっぴどく怒られました。どこにいってたんだーとか、怪我はありませんかー、とか心配したんだよーとか、私はべつにとか、とにかくいろいろ攻められました。


「それでなまえ、その手に持ってるのはなんだ?」

「あ、これ?これはね、リブガロくんの角だよ」


私のことを待っていてくれたユーリたちにお土産だよ、と笑顔を見せればユーリたちは私とは反対の驚きの顔をしていた。そして声を出して驚かれました。

...そういえば街の入り口まで一緒だったのに、あのおじさんはどうしたんだろうか

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