砦の周り、帝都側は休めたり買い物が出来たりはするがものすごい広いというわけではない。寧ろ狭いの部類だ。その中でなまえは都会を初めてみた興奮を未だ抑えられないでいた。そしてどういうわけか、梯子をのぼって城壁の上へと来てしまっていた。
壁に遮られた下とは違って風が吹き抜ける。帝都も見えた。反対側を向けば遠くに街のようなものも見えた。


 「ナイトハルト」


城壁の上、誰もいないと思っていたらそうではなかったようだ。帝都の牢屋と同じように先客がいた。最初どちらの性別かわからなかった。だが低い声を思い出せば"彼"になる。どうであれ、なまえからしてみれば初対面の人だった。


「...いや、違う...」


父と母がくれた自分の名前ではない。別の名前を呼ばれた。そちらに関しても認識はない。しかし初対面の彼はなまえと目が合うとそれをあっさり否定した。彼はなまえから視線を外し何か言葉を口にしていたが、遮りのない風がそれらを全部さらっていってしまう。


「すまない、忘れてくれ。」


再び目を会わせたと思えば彼はそういった。
一人でいろんなことを考えているんだ。彼はとても忙しい人だ、というのが印象だった。


「あ、名前間違えたことですか?大丈夫ですよ、私そういうの気にしない方なんで」

「忘れてくれ」

「それはきっと出来ないと思いますよ?だって人ってそう簡単に忘れられたら今までだって苦労しなかったと思うし、ここまで発展しなかったと思いますよ?」

「...その"人の発展"が」

「...。...私、何か気に障るようなこと言っちゃいましたか?」


なまえ自身驚いていた。例えで言った言葉が彼を深刻な雰囲気にさせてしまっていたから。聞いても彼は答えてくれない。正直どうしたらいいかなまえは答えを出せなかった。"そうならないように生きてきた"彼女にとってこれは難題に他ならなかった。


「あ、えっと、気に障ったなら本気で謝りますから、言ってください...。私、なんにもわかってなくて、その、ほんとうに、」

「お前はいつもそうだった」

「...。...え、」


困惑が思考の大半を占め自分でも何を言っているのかわからなくなっていた。彼女自身未知の対話に混乱していた。そんな彼女を見越したのか、彼は口を開いた。それは"以前から彼女を知っている"ように聞こえた。否、そうとしかとらえられなかった。




⇒僕の失くした心の欠片を隠し持ってる人がいる




「私は、空に瞬く星にはしゃぐお前が、好きだった。」


彼はそう言い残して去っていく。未だ混乱したままのなまえの思考ではその言葉の意味を理解出来ないことを知っていたのだろうか。

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