形振り構わず突っ切った。
星帝と言われているものだから身構えていたのだが、実際は気味が悪いほど静かなところだった。
今はエンジンの爆音が一体に響くだけ。
微弱な発信源を信じてただひたすら前へ進むしかない。
この静寂が罠で、この発信源も罠で、なんてことはもう考えないことにした。
罠だって関係ない。俺はなまえを助けに来ただけだ。
視界不良に襲われたのは唐突だった。
回避行動も取れず、エンジンは謎の急停止、墜落だけは避けたいと変形して見えない地面に足をついて着地する。
立ち上がり辺りを見回すが何もないただの闇。星のきらめく宇宙と違う闇。
試しに叫ぶが発生回路は正常な信号が届くだけで実際の発生を聞き取ることはできない。
代わりに聞こえるのはノイズだけ。
発信源を辿ろうとしてもエラーを示す。
だがそのノイズがだんだんと"声"に変わっていく。
「どうしてそんなに必死になの?」
子どもの声に聞こえた。
それがなまえの芸当じゃないのはすぐにわかった。
同時に試されているんだとわかった。
この声は星帝を必要としている者の声で、その星帝に必要な"あいつ"を探す俺を、敵か味方か定めるための試練なんだと。
だが俺には関係ない。
俺はなまえを助けに来ただけだ。
「好きなやつ助けるのに無茶しない理由はないだろ?」
迷いなく答えた俺の声は届いただろうか。
未だ自分の発生を自分で確認できないままだった。
でももうノイズは聞こえない。
聞こえてくるのは子どもの声。
「...。...うん、そうだね。彼女を助けてあげられるのは、やっぱり君なんだね。」
どこか嬉しそうに聞こえた。
だんだんと視界不良が晴れていく。
この瞬間、自分はこの声の主に認められたのだと確信した。
「お願い。"彼女"を、救い出してあげて。」
顔を上げれば見覚えのある部屋の前だった。
そうだ。"あの時"も俺はここまで来たのだ。
「ああ。わかってる。」
そして俺は一歩踏み出した。
後にも先にも君だけだ
覚えのある入り口は、お前を連れ出したあの日と全く同じ形だった。