セイバーが剣を振るえばそれが最後の化け物だった。煙になって消えていく。
もう敵はいないのかと空を見上げると、そこにはいままでにないものが浮いていた。思わず目を見開いた。

それは塊だった。黒い塊。遠いのかここからじゃすごく小さく見えるが、実際はもっと大きいんだと思う。

"宝石"が降ってこなくなったとおもったら次はこれか。覚悟を決めて俺もセイバーも遠坂もアーチャーも身構えた。
...が、何も起きない。宙に浮く塊から攻撃がなければ、動きもしない。


「な、なんだよ、あれ」

「聖杯だよ」


不意に口にした俺の言葉に返事が返ってきてびっくりした。振り向けばそこには言峰と英雄王。英雄王に関しては鎧を着けない傲慢さのかけらもなく、金色に輝く鎧。
俺の呟きに返したのは言峰のほうだった。...というかいまこいつなんていった


「な、聖杯って...!」

「なによそれっ、聖杯はあのときなまえが!」


遠坂も食いつく。そうだ。聖杯はあのとき、言峰が、妹の方のなまえが、願いを叶えて、


「自ら器になるでもなく、泥に犯された聖杯に願った"世界"が平穏でいられるとおもうか?」


じゃあ、なまえは泥-この世のすべての悪-にこの"世界"を願ったのか
でもずっと言峰といたなまえが聖杯が泥に犯されていることを知らないはずがない。


「...俺らのために体張ったっていうのか」

「あいつは君と一緒でお人好しだからな。...いや、それ以上の」


そういって言峰は空に浮く黒い塊を見上げる。俺もつられて見上げた。

...へんだ、今の今まで太陽が見えなかった空にうっすら影が見える。それに真っ赤な月が、どこを探しても見当たらない。
声に出して誰かに聞こうと口を開いた。

そのときだった

一体を凄まじい音が包んだ。爆発音にも似た音。そんな音がしそうなのは今宙に浮いてるあれしか思い当たらない。
目を凝らしてみれば、ゆっくり、黒い塊が崩壊していくではないか。さっきの爆発音とは裏腹にその崩れ方はガラスを割ったみたいに破片が落ちてくる。
黒い破片に混じってなんか赤い光が見える。いつのまにかはっきりと姿を現した太陽に反射するそれは、火の粉に見えた。それと、青く太陽を反射する、槍兵と、


「さあ、なまえ!この我の胸を貸してやる!なにも心配することはない!!」


今まで後ろで大人しかった英雄王が俺の前に出てきた。両手を広げ落ちてくるそれを受け止めようとしているようだ。
まずその言葉に耳を疑った。この英雄王は落ちてくる槍兵には見向きもしないことは最初からわかっていた。それより、今口にした、その名前は、


「なまえ!!」


槍兵-ランサー-に手を引かれ一緒に落ちてくるその姿はまさしくなまえ。
ああ、よかった、あいつが帰ってきてくれた。

安心したのも束の間、準備万端の英雄王-ギルガメッシュ-の背後に人影が見えた。その人影はあろうことか鎧を着たそいつの背中をめいいっぱい蹴飛ばした。
ギルガメッシュはそのまま前に倒れ、新たにそこに立ったのはいつもの重苦しい目の言峰。
ギルガメッシュは自分を転ばせた言峰になにか叫んでいるが本人はそれに耳を貸すことなく上を見上げる。

さっきまであんなに小さく見えていたなまえがもう近い。表情もちゃんと見える。笑いながら泣いていた。涙は"宝石"に変わって俺たちの上に落ちてくる。でもさっきみたいに苦しいものじゃなくて。


「きれいっ!!」


ランサーの手を離れたなまえが、兄の名を呼ぶ。そしてその胸に、思い切りとびこんだ。

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