この世のすべての悪-聖杯-の中は真っ暗だった。
聞こえてくるのは苦しみ、悲しみ、憎悪、耳を塞いでも意味を成さない。聞きたくない、と声を荒らげても自分の耳には届かない。聞こえるのは"悪"。ひたすらの"悪"。声を出し続けた喉は焼けたように痛い。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、助けて、お願い、


「だから嫌だったんだよ。お前を外に出すの。」


聴覚を埋め尽くす"悪"の隙間から聞こえた少年の声。閉じても開けても黒かった視界にはその少年の姿があった。その表情は不機嫌そうに、苦しむ私を見据える。


「外に出さなきゃ、あいつらあんな必死になんなかったのに」


少年がそう言うと真っ暗だった視界に映像が現れる。眩しくて目を細めたが、その映像に、綺礼がいた。目を見開いた。
自らの拳で敵をねじ伏せていく。拳を突き付ける相手は、黒い、憎悪の塊みたいな化け物。一体、また一体と倒していくがその分増えていく。きりがない。

すると映像の端から赤い閃光が射した。見たことがある。あれは"刺し穿つ死棘の槍"だ。ランサーだ、ランサーも来てしまった。

別の方向からは何かが放たれ敵を射抜く。金色をしたそれは"王の財宝"から放たれた宝具。


「お前が外に出なきゃ、願いが叶ってたのにな」


"みんなが幸せになれますように"

確かにあの時私はそう願った。自分が手を下した綺礼を助けたくて、もっと余生を堪能したかったであろうギルガメッシュのために、ランサーの胸に刺さった赤い槍を引き抜いてやりたくて
綺礼の妹になる前、役立たずと言われた私にも、誰か助けられると信じて、手の伸ばしたのに、

結局私には、だれも、助けられないのだ
"すべてを成し遂げる力"があったって、みんないなくなっちゃう


「...ぅ、う...。...ひっく、」


私から零れ落ちる涙は"宝石"になって底のない闇に呑みこまれてく。

私からあふれ出る液体は"宝石"と化し、それを見た人は私を"化け物"といい、自分の身を守ることしか、誰かを悲しませることしか出来ない、私なんて、私なんて


「...っ。...いないほうが、よかったんだ...」

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