なまえが失踪して一晩明けた。帰ってくる気配も、見つかる気配もない。
日が昇りきらないうちに目が覚め、礼拝堂へ向かう。
日が昇らない空は薄暗い。遠くに月が見える。見たことがないくらい、赤く、赤く、

この教会には今三人しかいないはずだ。
近づいてくる無数の足音に私は足を止める。近づく足音は止まることなく確実にこちらに向かってくる。
自宅にいる間中黒鍵を持ち歩くほど修羅場と化しているわけではない。確かに制圧戦争と称してサーヴァントが全力で襲ってくることはあるが、それを防いできた"地獄の釜"も今はない。


「...身を守る術のない神父を襲おうとは、いつの時代の盗人かね」


術がないわけではない。いざとなれば拳を突き付ければいい。
だがそう言えば人は優位に立ったと思い違いをする。そこから突き落とされた時の人の顔、怯えきった歪んだ表情が見たいのだ。

歪んでいるのはわかっている

それがなまえにはないと気付いたとき、私にないものしか持ってないと知ったとき、彼女がいれば私は"人並み"になれるのではないかと夢を見た。
欠落した部分を埋めるように、私は彼女に執着した。
それがいつの日か当たり前となり、彼女はなくてはいけない私の"心臓"と化した。


「ほう...」


足音の正体がようやく姿を表す。赤く鈍く輝く月に照らされ姿を現したそれらは、人間ならざる者。簡単に言えば化け物だった。
獣のように息を荒らげ、人間にはない鋭く長い爪をもち、そのくせ人間のように二足で歩く。その存在はサーヴァント、否使い魔に近い。

これでは恐怖に歪んだ人の表情は拝めない。では獣の苦し悶える姿で手を打とうか。


「お前たちだったか、私の"心臓"を拾った輩は」


その使い魔共が彼女の失踪に絡んでいるのは明白だ。でなければわざわざこんな教会にはこないだろう。
もしかしたら泣き虫のなまえに身内の首でも届けようというのか。それで喜ぶのは"私であって、彼女じゃない"。
彼女が喜ぶのは、私が喜ばないもの、たとえば、


「返してもらおうか。あれは"私の所有物"でね」


みんなの幸せ、とかどうだろうか

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -