凛が焦っていた。それは非常に珍しいことだった。
衛宮邸に家主-衛宮士郎-が帰ってきてからだ。理由は分かっている。凛の友人であるなまえが失踪したと聞いたから。
滅多なことでは落ち着きを崩すことのない凛だが、彼女のことになるといつも後先を考えることなく突っ込んでいく。
確かに凛が世話を焼くのもよくわかる。彼女は我々が思っている以上に無茶をする。それでもってその無茶を成し遂げるのが言峰なまえという人間だ。彼女には"それらを成し遂げる力"が備わっている。そう凛が以前言っていた。
「...凛、少しは落ち着きたまえ」
「落ち着いてられるわけないでしょ?!」
目の前で行ったり来たりして悩む凛に声をかければこうだ。
落ち着かなければならない、けれどそれでは彼女は見つけられない、だったらどうすればいいのか、凛は迷っているのだ。だからこんなに焦っている。
「あんな未知の力持った子がどっかいったなんて、悪用されたらどうするのよ...!」
「まだ決まったわけではあるまい。」
「そうだけど...」
なまえの根源は"すべてを成し遂げる"
それは体の外に魔力を放出し、意のままに操れる、というもの。
私もそれを目の当たりにした時は驚いたものだ。そんな力を持った人間が本当にいたのかと。
けれどその強大な力を宿す本人はそれをあまりよく思っていなかった。そのことは本人の口から聞いた。だから使いたくないのだと。だが彼女の意図せずともその力は彼女を苦しめる。
彼女の体を巡る魔力が体液と共に外気と触れると、結晶と化し、地面に落ちる。
凛の使う"宝石"に似たそれは彼女の涙、血液。だから人前で泣くことを許されない、傷を負うことを許されない。
人間という前提で魔力を持つ凛たちと違い、彼女は人間であることすら怪しい。
「なに、彼女はいつもこの程度の無茶はしていたじゃないか」
「...そ、そうだけど」
今回もいつもと同じで、無茶をして帰ってくるものだとばかり思っていたのに、そうならなかったのは何故なのか