ガチャリ、と扉を開ければ綺礼が出迎えてくれた。
ランサーはげ、とあからさまに嫌な顔を見せたが、私は大きい綺礼を見上げてただいまと言った。
「もう少し遅ければ私が晩御飯を支度したのだがな」
まず訪れたのは安堵感。あの麻婆豆腐をもう一回食さなくてもいい感動にも似た感情。
だからと言って安心しきってはいけない。急いで夜ごはんを準備しなくては綺礼が介入しかねないし、ギルガメッシュも騒ぎだす。
「す、すぐ準備します!」
そこからどこをどう手を動かしたかよく覚えていない。とにかく腹をすかせた育ち盛りの子どもたちに似た彼らにご飯を提供しなくては、という一心だったのはよく覚えている。慣れというのは怖いものだと実感させられた。
食卓に並んだのは今朝とは真逆の光景。地獄の釜もなければ煮えかえるマグマもない。一般的には通常の食事風景だ。
「うむ、まずくはないぞなまえ」
いつもどうりそう言いながら箸を止めないギルガメッシュ。なんだかんだ言って全部食べてくれるから見てて嬉しい。
と言ったそばから隣に座っているランサーとおかず争奪戦を始めている。次からはもっと作ってあげよう。
そして一人黙々と箸を進めるのは、綺礼。
恐る恐る、聞いてみる。
「...ねぇ、綺礼、おいしい?」
すると箸を止めて私のことをみる。
なんて返事が返ってくるのか不安で仕方ない私はまだかまだかとそれを待つ。
「まずくはない」
そう一言だけ言って箸を動かし始める。
この家にはひねくれ者しかいないことぐらいわかってるからそれ以上の返事を求めていない私にとっては満点の返答だ。
ただ、たまには、ちょっとぐらい褒めてくれたっていいんじゃないか、
なんてことはこの際棚上げしておこうと思う。
おかず争奪戦が終わる前にじぶんのおかずを確保しようと私は箸を動かした。