君しか知らない僕でいるよ

僕は虎。トラトラの実を食べた、虎人間。

「グルル…」

僕のご主人様は忙しい。『エイユウギョウ』と『シチブカイ』を一身に背負ってるから。

―でも、ご主人様はよっぽどの事がない限り必ず僕の元に帰ってくる。

―ガチャ―

「なまえ?」

ほら、ね。

「寝てんのか…」

ゆっくり近付く足音と、恐る恐る触れる柔らかい右手の感触。

―ふふ、鰐から見た虎ってそんなに柔に見えるのかな。

有り得ない事を思いつつ、素早く人間の姿に戻って、押し倒す。

「お帰りなさい、サー」

お疲れ様。と言いながら、懐くように首筋を甘噛みする。

「んン!…てめェ、なまえ。虎の癖に狸寝入りなんざしやがって」

咎める様な視線にニッコリ微笑む。

「多様性のある虎でしょ?」

がぶがぶ。牙の無い歯で首から耳、耳から邪魔な服、と順番に跡を残す。

―サーは、僕の。

「は、こら…ンッ、一々噛む、な」
腹減ってるなら肉でも何でも持って来させてやる。

そう言いつつも、徐々にサーの瞳は情欲に濡れ被食者の顔になりつつある。

―嬉しい癖に。だがそんな事は言わない。わざわざご主人様の機嫌を損ねる様な、そんな、こと。

代わりに他の場所にも、がぶがぶ。

「やだ、サーが良い。サーが食べたい」

時々電伝虫に向かっている『エイユウ』の、『シチブカイ』のサーは何だか終わった後疲れてる。

でも、何も聞かない。

―だってサーは僕にそんな事求めて無いもの。

ただ彼を肯定し、癒す。これこそ愛玩の役目だろう?
僕は出されたものを食べるだけ、ご主人様貴方もね。


いい子にはご褒美が必要、でしょ?


「っ…たく、物好きなデカネコめ」

紅に彩られたサーはとっても可愛い。

「ふふ、じゃあそんな僕に組み敷かれるサーは可愛い僕の子猫ちゃんだね」

―逸らされる視線もヒクリと震える躯も正にそんな感じ。鰐には見えないなぁ。

「んぅ、野郎にそんな事言うんじゃねェ…ッ馬鹿が!」

そう、僕は『馬鹿』なんだって。だからご主人様以外の事は覚えられない。そういう風に出来てるんだって。

死にかけた僕を拾った時からずっとサーはそう言ってるもの。

僕の頭の中は『サー・クロコダイル』の情報だけで一杯なんだ。

だから、この部屋から出る必要なんてないんだって。

―そうだね、確かに。僕はサーしか要らないから、他はどうでも良い。電伝虫の内容も分からなくて良い。

僕の目の前にはご馳走。それで充分。

「…クロコダイル」

「、なまえ…っ」

捕食者の笑みで僕は舌なめずり。

「いただきます」

貴方に教えられた通り行儀良く食べる前の挨拶と共に、

がぶり。




君しか知らない僕でいるよ


(だって檻の中に、君もいるから)




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