教室に入るとすぐに赤いアホ毛がぴょこぴょこと存在を主張しているのが見えた。
机にリュックを置いてからクラスメイトに挨拶をしてアホ毛を目指して歩いていく。
「羊ー、持ってきたよ」
羊に頼まれていたとあるものを差し出すと羊は嬉しそうに「ありがとう!」と目を輝かせて笑った。
「ありがとう月和!これ、読みたかったんだ!」
「それにしても意外だな。羊、マンガ読むんだねっ」
しかも、少女マンガ。
「oui!どこ探しても売ってなかったから月和が持ってて良かった」
「へえ、どこにもなかったんだ」
「ジュンク堂とアニメイトとメロンBooks、あぁとらのあなにも行ったんだけど…」
「は…?!」
「ふふ。アニメイトで色々買っちゃったよ」
「ぶっ……?!」
「ちょ、唾飛ぶじゃん。汚いなあ」
は?なにアホ毛。こいついつからこんなキャラになったの。
え、オタクじゃんか。
「お前も同士か…」
「なに言ってんの、月和。いつにも増して気持ち悪いからやめてくれない?」
「な…!うっさいわアホ毛!この…羊のアホ毛動きすぎなんだよっ酔うわ!見てるだけで酔うわ!!」
「はぁ?錫也ー月和がおかしいー」
「アホ毛とか言ってごめんなさい。あなたのアホ毛は素晴らしい動きをするアホ毛であってそんじょそこらのアホ毛とは違うということを忘れていましたアホ毛」
「錫也ーはやくー」
「ごめんなさい、まじでごめんなさい。なんでもするからごめんなさい」
悪かった。だから錫也は呼ばないで?
朝からお説教は嫌だよ。
錫也を本気で呼びにかかった羊をなんとか止めて、ここからどう逃げようかと考えていると羊に呼ばれた。
「ねえ、なんでもするの?」
はい?なにをおっしゃいますか、あなたアホ毛大丈夫ですか。間違えた。あなた頭大丈夫ですか?
「すーずー「わーわーっ!!何のことか教えて貰えませんか?!錫也大丈夫。大丈夫だから黒く笑わないで、ね?」
スマイル0円を発動してめっちゃくちゃ笑顔になってみた。
錫也が半分立ったっぽかったけどなんとかスマイルで切り抜けられた、と思う。
アホ!羊のアホ毛野郎!
危うく錫也がこっちにくるとこだったじゃないか!
「で、なんだよアホ毛」
「月和ってバカでしょ」
「羊ってアホでしょ」
「すーずーや!月和が…」
「すーずーや!羊が…」
「「頭わるい!」」
「どうした、お前ら…?」
サーッと血の気が引いていくのが分かった。
アホ羊が…錫也召喚すんなよ…!
そう思って羊をみるとあの美しい笑顔がひきつっていて白い肌は青白くなっているではないか。
まじで?
まあ、私の笑顔もひきつってるね。断言できるわ。
キング錫也の前では誰もがひきつり笑いになる。これ絶対。
「なんでもないよう!ね、アホ毛じゃあなくて羊?!」
「うん!!そうだよバ……じゃなくて月和!」
「羊、今バカっていいかけ…てないねー!うふふ」
錫也こわい。
泣きそう。
「大丈夫か…?まあ喧嘩するなよ」
「う、う、ううん。うん。うん!」
チラリと羊をみるとなんかもう必死だった。
すごくわかるよその気持ち。
はやくかえってくれ…これ以上仲良しを続けるとボロがでる…。
きっと羊も同じ気持ちだと思う。
すると私たちの祈りが届いたのか錫也は「なんかあったらまた言えよ」と苦笑いして席に戻っていった。
「あぶなかったあああ…!」
「ねえ…さっき僕のことアホ呼ばわりしたでしょ」
「え゛?い、いってないよ?」
「はあ…月和はバカだから。哉太と似てる!」
「ふっざけるなっ!私はバカじゃない!哉太と一緒にすんなや!!」
「う…そう言われればそうかも」
「それに、羊だって私のことバカバカと……!」
「いった!足蹴らないでよ!」
ぎゃーぎゃーと揉め始めた私達に向かって哉太が小さく「俺のフォローはなしか…」と呟いていたがそんなん知るかぼけえ!
ついったーにでも呟いてやがれ!!
「月和ちゃんーさっき哉太が廊下にしゃがみこんで、のの字を書いてたけどどうしたの?」
「保健委員お疲れさまです!で、哉太が廊下に…?」
「うん…大丈夫だって言われたんだけど…」
保健委員のお仕事から帰ってきた月ちゃんが心配そうに席についた。
月ちゃんに心配かけるわけにはいかないので哉太の様子をみにいくことにしますか。
不良が廊下でしゃがみこむってすっげえカオス。
そんなことを思っているとキーンとハウリングをおこしたときに聞こえるような耳障りな音をスピーカーがだしていることに気づいた。
『あーあー…生徒会長からの連絡だ。中司月和と夜久月子は今すぐ生徒会室にこい。3分以内にこないと俺とポッキーゲームすることになるからな!ちなみに月子は免除だ。』
うわぁ。面倒臭い。
放送部員よ…放送機器の悪用、許しちゃいかんって。