「おーしろー!」

突然、桜士郎に会いたくなり彼の教室に押しかけてみた。

顔をみるなり突進してきた私を軽々と受け止めてからゴーグルをくいっとあげる。

「月和!久しぶりん」

独特なしゃべりをきいて色々なものが込み上げてきてしまう。

ガバッと思いきり抱きつくと、手馴れたようにあやしてから耳に顔を寄せてきた。

「お前さ、一樹泣かしたろ。くひひっ」

耳元で笑うのはやめてほしいと、いつも言っているのにやめる気配がいっこうにないのはどうしてだろう。
しかも何。一樹さんってどなた?

「知らないの?不知火一樹。現会長」
「あ、あの、前髪がクロスしてる先輩のこと?!」

「そうだよ。
しょうじょ
らくらく
ぬがして
いただきっ☆
で、不知火。くひひっ」

「つまり、不知火先輩も変態だと」

も、ってどゆこと?!と聞いてくる変態はおいておこう。
あ、そっか。
この人、ド変態だった。

「………どうして生徒会入らなかったの」

桜士郎のダイレクトアタック。
不意討ちの攻撃に視界が赤くチカチカしてる。

ピコンピコンって効果音してるわ。

「やぁ、その……」

って、あれ?
私、怒られるようなことしてないよね。
嫌いとは言ってしまったけれども!

「えと、生徒会じゃなくてさ。放送部に…」

「部活入ってるじゃん」

「掛け持ちおっけー!」

そういうと、桜士郎は納得したように頷いた。

「奈坏が怒ってたのはこのことじゃないんだ」
「あ、でも。新聞部にも入りたかったんだよ?だって、桜士郎いる…し」

自分で言っててだんだんと恥ずかしくなってきた。
最後の方は聞き取れないぐらい小さな声になってしまったかもしれない。

桜士郎はお兄ちゃんの友達で、幼い頃から遊んでもらっていた。
だから、呼び名もおーしろー。
私にしてみれば、兄であり家族なのだ。

「くひひっ、奈坏兄ちゃんに俺、殺されちゃう♪」

言葉とは裏腹にニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる先輩。
ゴーグルをつけてしまっているから、よく読み取れないのだが。

それでも桜士郎は優しい。
「もしかして俺、愛されてる?」

「ち、違うもん!」

ニヤニヤと眺められる。
す、好きだけど…って、そうじゃ、なくて!
なに考えてるんだろ、私!?
いや、おーしろーは好きだけど、愛してるとかじゃなくて…。
でも、真っ向から否定はできないし。
家族みたいなものだと思ってるから…、その……ねえ?

「くひっ、じょーだんだよ。まぁた月和は真に受けすぎる」

ぶっと吹き出す桜士郎。

か、からかわられた?
くぅ…負けた…!!
ぶーぶー!悔しいっ。

「ほら、ふくれないのん。今よりもっと忙しくなっちゃみんな心配しちゃうぞ」

「で、でもっ」

「はいはい、頑張れ」

頭に温かい手がのかって髪の毛がぐしゃぐしゃになったけど、凄く嬉しかった。

「たまに会いに来てくれないと、寂しいなー」

本当か?
小さく心の中で突っ込んでから「分かったよ」と返事を返した。

「約束だからねん」

目の前に桜士郎の小指。
私の小指も差し出して桜士郎の小指と絡める。
昔を思い出すな…。
懐かしい歌を聴きながらそんなことを思った。

「またねっ!」

昼休みの終わりの鐘がなり始めてから慌てて教室を飛び出す。

変わらない人なんていないんだと何故だか思った。

…………何故だ?





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