私はさっきまで教室にいたはずです。 「先輩、はやく!」 何故走らされているのでしょうか。 「よそ見してると転びますよ、月和先輩?」 「ねえ、梓くん」 「なんですか?ぱっつんとか言ったらデコピンより痛いことしますよ」 「…………。えと、どうして私は走っているのかな?」 お昼休みは宮地くんと月ちゃん達と食べるつもりだったんだけどな…。 何とか撒こうかとは思ったが、がっちりと手を捕まれて、(握られての方が正しいかもしれない)そのまま風となってしまったのだ。 つまり強制的に廊下を全力疾走している。 頭の上にいくつもハテナマークをつけている私を梓くんはちらっとみてから 「あぁ、そんなことですか。それは、先輩が足を動かしているからですよ」 なんて言いやがった。 後輩だからって、殴ってやろうか。 「疲れたー」 「息きれてないくせに何いってるんですか!」 「うあーって宮地くん!助けてええええ?!」 向こうから宮地くんが歩いてきたから私は迷わず助けを求めました。 いえ、求めようとしました。 「ちょ、何故加速する?!」 「何故、何故、うるさいです」 宮地くんに話しかけようとした瞬間、梓くんは私を思いっきり引っ張って、スピードをあげた。 宮地くんとお話したかったのになんてことをするんだ、この後輩。 「宮地くーん!今日は一緒に食べれそうにないの、ごめんなさい!!」 それでもお詫びくらいはしておくべきだと思い、驚いた顔をしているであろう小さな宮地くんに大きな声で叫んだ。 すると梓くんは私をじっとみつめてから手をギュッと握り直した。 うん?どうしたんだい。 「先輩は鈍感なんです!これでも気づかないくらいなんですから。宮地先輩から奪ってみせます!!」 梓くんが突然、私よりも大きく宮地くんに叫ぶものだから。 私の顔は今どうなっているのだろうか? 宮地くんのいつもより厳しめな声音の「お前ら、廊下を走るな!」というごもっとも注意は遠く感じた。 俺は思わずため息をついてしまった。 それに気づいた夜久が大丈夫かと声をかけてくれる。 「龍之介君、何かあったの?」 夜久は本当によく気づく。 最近は部活が大変になってきたというのに。 今だって疲れてるはずなのにな。 「いや、なんでもない」 「ふふ。いいんだよ?月和ちゃん…でしょ」 顔が赤くなっていくのを感じた。 「む…!」 「月和ちゃんはね自分のこととなると、とことんうといから」 くるっと俺のほうに振り替えって「頑張ってね」と夜久は笑みを浮かべた。 「泣かせたら私が許しません!絶対だよ、宮地く…きゃあ!」 「っ!大丈夫か?!」 夜久は変なとこで抜けている。 後ろ歩きしたままずっといるから、足をどこかに引っ掻けたらしい。 ゆっくりと後ろに倒れていく夜久を慌てて支えた。 「ご、ごめんね!」 「む、これくらい何ともない」 中司はまだ学園からでてこない。 うわぁ、みちまった。 それが第一感想。 それからの私の対応は自分でもびっくりするくらいにはやかった。 回れ右して学園目指して歩いていく。 うん。大丈夫。気づかれてない。 「……中司…?」 とたん、後ろからの落ち着いた静かな声に足が止まった。 でも、聞こえなかった振りをして足を一生懸命動かした。 「え…?月和ちゃん?!」 今度は慌てたような可愛らしいソプラノ。 さすがにもう聞こえなかった振りはできない。 でも、振り向くことが出来なかった。 「ち、違うの月和!私が転びそうになったのを龍之介君が支えてくれて…」 知ってる。そんなこと分かってる。 「大丈夫だよう。月ちゃん、よく転んじゃうもんね。気を付けなきゃダメなんだよ?」 なんでかな。私の声は震えていて、今にも泣き出しそうだった。 元気を装った強がりな台詞はここまでくると滑稽に聞こえる。 「違う、勘違いしてるよ!龍之介君は…」 月ちゃんが私の横を走って通り抜けた。 その時に「素直になって」と優しく頭を撫でられて、思わず涙が溢れてしまう。 「中司、」 「待って、私ダメだよう…なんで泣いてるか分かんない」 いつまでたっても涙は止まらなくて…。 胸が苦しい。 「え…?う、なっみやじくん?!」 宮地くんを近くに感じた、と思ったら私は宮地くんの腕のなかにいて驚きのあまり口をパクパクとさせるしかなかった。 そのまま彼が私の背中を優しくポンポンと叩いてくれたためか涙も引いてきて数分後には落ち着きを取り戻すことが出来ていた。 「…すまない」 そういう彼の頬は真っ赤で、つられて自分の顔も熱をもってきたようだ。 「ただ、夜久とは何もない。本当だ」 「それくらいわかるっ!」 「じゃあ、どうして泣くんだ」 「………………」 墓穴を掘ったみたいです。 なにも言えずに黙っていると、宮地くんはフッと笑った。 私はこの笑みが好きだ。 「…嫉妬、してくれたのか?」 違うよ、と天の邪鬼な私の言葉はそのまま呑み込まれて、かわりにおでこが熱くなった。 「んーっ!!」 恥ずかしさでなにも言えなくなった私を前に、彼はまたあの笑みを浮かべた。 「お前も、嫉妬させすぎだ」 手なんか握らせるな。誰にも渡さない、そんな台詞が近くで聞こえてきて、それからまたおでこが熱くなった。 (こんにちばんは!リクに答えられなかったかんがありますが大丈夫でしょうか…?ごめんなさい!乃愛さまへ精一杯の愛と感謝の気持ちをこめて!――りのん) ← |