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__ 優しくしてください(アル主)


 アルセーヌとセックスをした。
 いや、これは少し違うか。そういう夢を見た。押し倒されて、あの長い指で俺のをそうっと触り、最後には──、やめよう。思い出したくない。そうは言っても一日身が入らなかった。思い出してはぼーっとしてしまって授業中に飛んできたチョークが眉間に直撃したのは久しぶりだった。いつもなら避けられたはずなのに。メメントスに行くはずだったけど、モルガナに心配されてそれも中止になった。こんなこと所詮夢だ。いつまでも引きずることでもない。でも、悪い気持ちじゃなかったのだ。気持ちがよかったし、案外悪くなかった。

 夢は記憶の整理だと言うから前日事故で見てしまったサイトのせいだと思う。見る気はなかった。俺にはまだ早いと思ってたし、そんなに興味はなかった。音量とかはイヤホンしていたから大丈夫だったんだけど、頭にこびりついてしまって慌てて布団にくるまった記憶がある。パソコンを直して調子に乗っていた矢先のことだ。モルガナはすぐそばにいなかったし、被害にあったのは俺だけだった。それは不幸中の幸いだったかもしれない。
 ここではっきり言ってしまえば俺は童貞だ。っていうか、まだこの年齢なんだから当然だ。当然だよな?だからそういうの耐性がなくて、彼女だって、俺に好意を寄せてる人とかなんとなくわかるけど、こわ……うん、それはいいとして、だ。
 その夢をアルセーヌも見ていたらしい。というのが問題で、思わずふざけるな、とかそもそもお前とそんなこと出来るわけないだろ!とか叫んでしまったことだ。気まずい空気と燃えるようなオーラに怒りが見えた。心なしか目の辺りの炎の勢いが強い。あ、これはやばいな。と思うが今さら遅いわけで。いつもならモルガナが仲裁してくれるんだろうけど気を利かせたモルガナは外に出ている。十時には帰ると言われた。ソファーから時計をチラ見すると十時まではあと四時間もあった。

「出来るわけがない?」
「だっ、だってないだろ、そういう……その」
「生殖器か?」
「なんでそう……恥ずかしくないのかよ!」
「見たいのか?」
「ば、バカ! ほんとバカだ!」
 どっと顔に熱が集中する。ああ、もう。ってかあるのか。初耳だ。当然だけど!自然と視線がそこに行くがわからない。なさそうだけど、収納式なのかもしれない。認知かも。いや、冷静になってる場合じゃない。
「……出来るわけがないと思っているだけで我とはしたくないわけではないのか」
「それ、は」
 独り言のように呟かれた言葉に反応して、詰まるのは夢のせいだ。気持ちがよかったのは事実で、でも。でも。
 アルセーヌのことは好きだ。伝えたことはなかったけど、あのとき俺が死にかけたときに救ってくれた相手だ。パレスから帰って来たときに屋根裏にいたのはビックリしたけど、あのとき俺はもうきっと惚れていた。

 ふむ、と考える仕草をして、壁に寄りかかっていたアルセーヌがかつかつと俺の前に立つ。俺より背が高いから見下される感じがする。アルセーヌが不意に俺の両脇に手を入れて俺を持ち上げる。
「あ、アルセーヌ……!」
 ぎゅっと腕を掴む。ぶらんと身体が浮き上がるって、そのままベッドに下ろされる。夢のことを思い出して思わず身を縮めた。そのまま爪で俺の頬を撫でる。
「痛かったか?」
「いや、痛くはなかった……けど」
「けど? 貴様はすぐ言葉を濁す」
 そう言いながらアルセーヌは服の下に手を入れた。長い爪が俺の肌を這ってきてひっ、と声が出る。冷たい無機質な爪がゆっくりと俺のことを撫でる。くすぐったい感覚に腹がひくつき、ふっ、ふっ、と呼吸が溢れる。アルセーヌは何も言わず、行為を続けていて、やめる気配も見えない。また夢のことを思い出す。その先と、もっと先のこと。
「いや……だ、」
 思わず口走った言葉にぱたりとアルセーヌが伸ばす手が止まった。
「あ」
「貴様のされたくないことはしない」
「…………」
 こういうときに表情がわからないのは不便だ。意地悪なのかただわかってないのか。俺のペルソナのくせに俺の気持ちもわからないなんて。筒抜けなのも嫌だけど。好きだ。嘘じゃない。抱かれたっていいとは思う。だけど未体験のことは怖いんだ。
「アルセーヌ」
 名前を呼ぶ。視線がかち合った。蚊の鳴くような声で俺は言う。
「      」



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