P4 | ナノ



__ 理由は後から考える(足主)

お題「出所後」
※主人公名:瀬多総司

 外はどしゃ降りだった。夜になってもこれでもかと降る雨は、連日続いていて外出も極力控えるせいで暇なことが多い。
 そーじくんと俺の名前を呼んだ足立さんはソファーにだらりと寝転がったまま読んでいた雑誌を閉じた。その隣で余った(というか押し出して無理やり確保した)スペースで本を読む俺はなんですか。と問いかける。足立さんはうんと伸びをして俺の膝に読みかけの雑誌を置いた。月刊のミリタリー雑誌だ。こういうのが好きなのは彼が出所してから知った。驚いたけれど、好きなことを包み隠さず話してくれる足立さんは好きだ。それについて俺にはよくわからないことが多い。でも、楽しそうだからいいんだと思う。

「昔、君のシャドウに会ったんだよね」
「俺のシャドウですか……?」
 俺が尋ねるとそうだよ?と足立さんは笑う。俺はさぞ変な顔をしているんだろう。
「テレビの中にいたときに会ったの。見た目は君のまんまなんだけど金色の目してて。前に話してくれたよね、ああいうのシャドウっていうんでしょ。抑圧された? 存在? みたいな」
「そうですけど、なんで今更そんな話を?」
 足立さんが自分からテレビの中の話をすることはあまりない。俺が禍津稲羽市を探索している間のことは特に。いや、俺だって自分から話したいとは思ってないけど。俺のシャドウはてっきりいないと思っていた。シャドウっていうのは自分自身の前に現れるものじゃなかったんだろうか。俺の目の前に現れずに足立さんの前に現れるなんて。
「雑誌にあのとき持ってたのが載ってたから思い出した。君が一人でやって来たと思って撃ったんだよ。これで」
 これ、と言って足立さんは体勢をうつ伏せに変えて俺の膝の上の雑誌を開いた。指を指された拳銃をみるが拳銃のことはよくわからない。リボルバーという種類みたいだった。蓮根の穴のようなものが六つある。
「にゅーなんぶ?」
「そう。これ。警察ではよく使われてるやつ」
「……へぇ」
「よく分からないって顔してる」
「だって、そうですもん」
「かっこいいとか思わない? デザインとか」
 言われて見てみるがあまり感じるものはない。使ってみたことはないし、触ったことは……足立さんがモデルガンとして見せてくれたことがあったかもしれないけど、うまく想像がつかない。蓮根とか例えたことはもう絶対言えないなと思う。俺の芳しくない反応に君もまだまだだなぁとため息をつかれる。
「俺は刀とかの方が好きです」
「デザインが? それとも使っていたから愛着が?」
「それは、まぁ……あ、それよりシャドウは? 大丈夫でしたか? 何か悪さとかしませんでしたか?」
「ああ、別に。攻撃とかしてこなかったよ。手ぶらだった。撃っちゃったけど全然平気で俺の本当に思ってることを聞いて欲しいって言われて、俺はあなたのことが大好きだとか、できたら名前で呼んでくれ〜とか色々言ってきたくらいだよ」
「そ、そんなことを?」
「言ってた」
「思ってないですよ……!」
「嘘、僕が出所してから総司くんってときどき呼ぶとにやけるよね」
「別に、それは」
「じゃあ僕のこときらい?」
「……もう!」
 雑誌を顔に押し付けると足立さんは起き上がってにやにやと笑った。嫌いとは言えないのわかってるくせに、この人は。本当に。
「僕のことほんと好きだよねー。言わなくてもわかるよ。彼は今どうしてるかなぁ」
「……さぁ。知りませんよ」
「今日は夜通し雨だっけ、マヨナカテレビが映ったりしてね。あ、ちょうど十二時」
「まさか、そん──」
 ザアッと音をたて、テレビに砂嵐が映った。俺はこれをよく知っている。きっと足立さんもだ。二人とも終始無言で流れる映像に釘付けになる。それから、お互い顔を見合わせた。映っていたのは俺のシャドウと足立さんのシャドウ。
「……今のは?」
「……お、俺の欲望じゃないですからね?」
「じゃあ僕?」
「俺じゃないならそうですよね。その、き、キスしたいんですか?」
「いや、脈絡考えてよ」
「じゃあなんで顔が赤いんですか?」
「君こそ顔が赤い」
「……」
「……」
 無言でいると足立さんが先にキスをしてきた。触れるだけ。それからすぐ目が合った。
「別に、あいつらの見たからじゃないから」
「わかってますよ」
 そう言ってキスをお返しする。うやむやにするため。いや、俺も心の底ではそう思ってたのかな。これがどっちの抑圧されたものなのか、それはこれの後にしよう。



[back]


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -