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__ *傷だらけの気泡(足主)

三兄弟ネタ

三兄弟って本当によくない。偶数だったら良かったのにと思いながらも、それでも変わらないだろうとも思う。
三兄弟の一番上の孝介は兄としてしっかりしていて何より賢かった。末っ子の悠は無条件にみんなに愛されていた。無条件じゃない、恐らくそういう魅力的な力もあるんだろう。それが末っ子ということで倍増されて愛される。
それに比べ真ん中の俺は、上と下に比べられ、肩身の狭い思いをするだけ。そんなの居たっけとか、三兄弟の中で影が薄い奴とか呼ばれてきた。
才能が有れば違う話なのかもしれないが、そんなもの持ち合わせていないため、結局俺は肩身の狭いままここまできた。

稲羽に来てからはそれが益々目に見えるようになった。ペルソナという力が兄弟全員に発現したからだ。
兄の孝介は攻撃メイン、弟の悠は回復メインのペルソナが生まれたけれど、俺のペルソナは後方支援型で能力向上をメインとするペルソナだった。居ても居なくても変わらない俺にぴったりだと思う。
テレビの探索にはついていくけれどあまり必要とされたことは無い。周りは気遣ってくれたが、むしろその気遣いが俺には辛かった。

だから、めちゃくちゃにしてやりたかった。警察にこの事を話してやろうと思った。信じてくれなくても、銃刀法違反くらいは認められるかもしれない。殺人事件とか、人を救うとかはどうでもいいと思った。思ってしまった。
いっそのこと、シャドウが出れば楽だったんだろう。だけど、出なかった。それでヤケになったのかもしれない。今振り返ると本当にどうしようもない理由だった。ただの下らない嫉妬と羨望でこんな事になるなんて。


「みんな死んじゃったみたいですね」
「そうだね」
俺がそう言うと隣を歩く男は肯定の言葉を短く返す。テレビの外なのに静かで、霧が深い。眼鏡をかけて辛うじて見える程度だ。あとは時折道の端に黒いシャドウがうずくまっていたり、俺達の前を横切ったりする。
「……俺達もシャドウになるのかな」
「なるのかもしれないし、ならないのかも。君はどっちがいい?」
「……どっちでも。今も生きてるか死んでるかよく分からないですし」
「それ、いつからのこと言ってる?テレビに逃げてから?それとも……」
「……」

俺が話をしたのは叔父さんの部下の足立さんだった。
洗いざらい全て話した時、足立さんは笑ったけれど、信じてくれた。意外で、驚いた。
それから足立さんは「じゃあ、次は僕の秘密を教えてあげる」と声を潜めてにっ、と笑った。俺の知っている足立さんじゃないことに嫌な予感がしたが、今更どうにもならない。
その後告げられたのは足立さんが俺達が追っている事件の犯人であることだった。
「他の人に君が言わなくてよかった」と足立さんは安堵して、お互いこのことは秘密にしようという約束になった。そして、それから仲間を裏切って足立さんとテレビに入って今に至る。

「ねぇ、総司君」
「……名前、忘れてるのかと」
あまりに呼んでくれないものだから。
「やだなぁ、忘れてなんかいないよ」
視界の隅で電柱に寄りかかっていた男がドロドロと溶けてシャドウになる。もう見慣れた光景だった。
「総司君、君のことが好きだよ」
「……違う。あなたは孝介や悠が好きで俺を代わりにして……今更どうしてそういう事言うんですか。あなたから好きなんて言うのはおかしい。死んだから乗り換えですか。そんな事するなら孝介や悠だと思って愛された方がずっといい」
あれから、足立さんと秘密を共有する俺はのめり込んで足立さんと一緒に居るようになった。何も隠さなくていい本音で語り合えるというのは心地が良かった。それで、もっと近づきたかったくなった。この人なら愛してくれるのかもしれないとか、思って。だから、自分から体の関係に持ち込んだ。
結果は、よく分からなかった。
気持ちは良かったけど、足立さんは俺の名前を呼ばなかった。体を重ねている時だけじゃない。足立さんが名前を呼んでくれないのはいつもだった。
俺なんて見てないで孝介とか悠のことを見ているんだと思っていた。
「もういい。そろそろ君も愛されたらいいじゃないか、素直にさ」
「そんな素直にあなたの愛を受け入れられるとでも思ってるんですか。嘘なんでしょう。俺は、あなたなんて好きでも何でも……」
信じたくなくて首を振って最後には嘘をついてしまっていた。
というか、嘘であって欲しかった。
「なら、どうして君は僕と一緒にいる?抱かれたがった?嫌ならいつでも殺す隙があった。僕を殺せばきっと兄も弟も死ななかったよ、稲羽も、仲間もね」
「……言わないでくださいよ」
俺が足を止めると足立さんも足を止めた。こうして歩いているのも特に意味は無い。ほとんどの人はシャドウになった。
孝介達は……知らないけど、テレビに居た時俺達の前に現れなかったということはそういう事だろう。
「後悔してるの?」
「別に、あんな人達……俺は」
「僕も好きじゃないし、彼らも好きじゃないの?そりゃあ誰にも愛されないと思う訳だ」
「……そんな言い方、」
「君はさ、元々愛されてたよ。みんなが手を差し伸べてたのに、気付きもしなかっただけだ。僕だって愛していたのに信じてくれなかった」
「嘘だ。だって、俺は」
それが本当なら、俺はどうしたらいいんだろう。もうどうしようもないじゃないか。なんで、どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ。
「約束しようよ、僕と。来世は君を一番に迎えに来て愛してあげる」
「覚えていられる訳が無いでしょう、そんなの!」
「さぁ、どうだろうね。案外覚えてるかもしれないよ。ほら、最後にキスしてあげる」
最後?言葉にする前に足立さんは俺の唇を奪った。吃驚している間に足立さんは笑う。口角がきゅっと上がって目が細くなって。俺が見た中で一番いい笑顔だった。
そんな足立さんが片手を挙げて手を左右に振って「じゃあね」と一言。
それからは、さっき見た電柱に寄りかかった男のようにドロドロと溶けて、シャドウになった。
慌てて足立さんであったシャドウを抱えると離せとでも言うように俺の腕を押しのける。きぃきぃとうるさく鳴く。もう足立さんの思考や記憶は無いのかもしれない。
「ひとりになっちゃった」
誰に言うでもなく呟くと現実が襲ってくる。
足立さんはもう自分がシャドウになるのを知っていたんだろう。足立さんがなったという事は、俺ももうすぐシャドウになるんだろうか。なるなら早くなりたいものだ。
どうか、来世はこんな間違いしませんように。



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