P4 | ナノ



__ 今日の日に背いて(足主)

俺達にはルールがある。生活を円滑にするためというより、お互いを縛り付けるためのルールだ。どちらが始めたかわからないけれど、発端はあの日の鳴ったら出なよ。その言葉だったのだと思う。俺も足立さんも勝手に増やして気が付けば10にも20にもなってしまっていた。
正直俺としては窮屈でたまらない。けれど、やめようにも負けた気がしてどうにも折れることが出来なくなってしまってる。だから、そっちが音を上げてくれないかと俺もルールを付け足していく。別に守らないと何かあるわけでもない。けれど、お互い頑固な性格で破ってしまうとそれはまぁ、ここぞとばかりに傷口を抉るように責め立てる。場合によっては今みたいに大喧嘩に繋がって大変よろしくないのだ。

電話に出た時、舌打ちが聞こえた時点で苛ついているのだろうとは分かっていた。八つ当たりか何かだろうとうんざりしたことを覚えている。俺も今日はあまり機嫌が良くなかったのだ。その末の喧嘩だった。

『今日の4時頃何してたの?電話は3コール以内に出ろって言ったよね。出ないとかもっての外じゃない?』
「あなたは馬鹿ですか? 早朝4時に起きてる人がどこにいるんです? 眠っていたに決まっているでしょう」
『決まっている? 誰が何処で決めたんだよそれは。僕はその時夜勤だった。知らないはずないよねぇ? お互いのスケジュールはカレンダーに書いてあるし把握するルールだろ? 可能性というものを考えろよ』
「普通の人のことを言っているんです。大体あなたこそ。最近俺のメールを返信するのに一時間もかけてる。3コールで出るルールより簡単じゃないですか、30分以内に返信って」
『普通の人? 犯罪者は普通の人には入らないだろ。君こそ馬鹿だなぁ。そうやって話を逸らすなよこのクソガキ』

こうやってお互いのことを貶す。電話だったり、向かい合ってだったり。爆発したように相手の不満とか欠点、汚点を言い合って言葉が出なくなると物が飛ぶ。時には暴力までに発展する。この関係だとか仕事とか大学とか何もかものストレスをぶつける。最近この頻度も増えたような気がするようなしないような。
もう疲れた。とか思う。何にだかはわからないけど。なんかもう色々。
いつか喧嘩に歯止めが効かなくなって遂にはどちらかが死ぬまで続きそうな気さえする。まぁ、それでもいいのかな。なんて。

そうこうしていると家の前だ。電話は今帰りますからと俺が切った。外であんな攻撃的なやりとりをしているのは電話だとしても流石に恥ずかしかった。本当何してるんだろう俺。
足立さんとは一緒に暮らしている。いちいち俺が来るのが面倒になったから、俺が住ませてもらっている。親はまた海外に長期で行ってしまっているから俺が悪い大人と過ごしていることを多分知らない。見てるのは大学から送られる単位の評価位だろう。まぁ、いい。そういうのはあんまり考えたくない。ただ、アパートの扉を開けるのが億劫だっただけだ。開けた途端物が飛んで来ることが無いわけじゃない。途中で切ったことに腹を立ててもおかしくない。
息吸って冷たいドアノブに触れて回す。ドアノブは回りきらず、硬い音を立てた。手に持った携帯をまた鳴らす。

「居留守なんてしないでください。そんなルールは無いですよ」
『家賃は僕が持ってるからいつでも君を追い出せるよ? 家主が都合が悪い時は共犯者さんは部屋に入れない。はい。今作った』

くそと思わず汚い言葉が出た。電話口からは笑い声が聞こえてくる。ドアの内側からも聞こえるような気がして嫌になる。本当に嫌だ。全部。

「……浮気しちゃいますよ」
苦し紛れに出た言葉だ。自分でも何でこんなこと言ったんだろうとこの言葉が出てから思う。別にこの人と付き合ってるわけでも何でもないのに、なんでこの言葉が効果的だと思ったのかわからない。この人が家に住ませてくれているのは監視のためだ。俺を抱くのも逃げさせないため。
だから、足立さんは笑った。勘違いしてる俺を笑うようだった。
『あは、そりゃあいい! 今更女の子なんか満足出来ると思わないけどいいのかなぁ』
「女とは限りませんがね。あなたこそ俺以外には勃たないんじゃないんですか? 俺って凄くそそるんでしょう?」
『自惚れるなよ。他の奴とヤったら二度抱かないからな』

そこで電話は切れた。強い言い方だった。より怒らせた気がする。
また電話がかかってくることは無いだろう。部屋の鍵が開くことも多分ない。電話がかかってくる、ましてや鍵が開いたらそれは足立さんの負けだ。俺へ同情したということの。そう考えて馬鹿だ。と思う。
何を争っているんだろう。負けたからって何になるんだろうか。なんとなく嫌だということで何を見栄張っているんだろうか。俺も足立さんも馬鹿でどうしようもない。

気が重くなりながら外へ出る。いつの間にか雨が降っていた。傘は降ると思わなかったから無い。閉め出されるのは初めてだけれど、毎回毎回喧嘩の後は気持ちが塞ぐ。家に入れてたら、こんなことにはならなかったのに。とか言い過ぎたかなとか。部屋では顔も見ずに不貞寝するとか、ひたすら黙るのが俺の抗議の仕方だった。仲直りとかはどうやってしていたのか思い出せない。数日帰ってこなかったら探しに来るだろうか。というか、監視するって言った癖に俺を閉め出すなんて最低だ。びしょ濡れになりながらアパートの窓を見てみる。窓はカーテンがかかったままで中は窺えない。



[back]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -