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__ 肺を満たすは炎(足主)

※共犯者エンド後

その日は、バイトがいつもより遅くなってしまった日だった。一人暮らしな為、急いで帰る理由も無いけれど普段より遅い帰りというのは何故だか早く帰らなければという気持ちにさせる。少し早足で駅構内を歩いているとポケットに入れた携帯電話が震え、着信音がけたたましく鳴った。盛大に鳴り響いたそれは駅構内の人々から好奇の目を買うことになる。携帯をマナーにし忘れた訳じゃない。“鳴ったら出なよ”その言葉を守り、裏切らない為、マナーであろうが着信音が鳴るように設定したのだ。この三年間鳴る事は無かったのだけれど。
今ではほとんど見かけない二つ折り携帯を取り出して通話ボタンを押す。相手なんて確認することすら時間の無駄だ。モタモタしていると切られてしまいかねない。と携帯を耳に当てる。この時をどれだけ待っていたんだろう。なんだか、心臓が破裂してしまいそうだった。

「……もしもし」
『久しぶり。少し背が伸びた?すらっとした足が美しいね。今の君も僕は好きだな』
飄々とした声、三年経っても変わらない声がスピーカーを通して聞こえてくる。久しぶりに聞くその言葉には、好きという言葉が含まれていた。それに酷く動揺してしまって、次に出た言葉はたどたどしかった。
「足立さん。今、どこに」
『探してみたら?』
「……近くにいるんですね?」
そう判断したのは足立さんの声の背後からの音だ。
さっき、駅構内に入る前にストリートライブをやっていた。電話の先からはその歌声とアコースティックギターが電話から聞こえてくる。最近人気な類のあなたが居なくて寂しいとかそんな歌だ。
足立さんは問い掛けには答えず、沈黙していた。わざとだろう。俺を試している。そう感じて、携帯電話を耳に当てたまま駅構外へ向かう。急ぎ足で、携帯電話の向こうへ耳を澄ませているせいで何度も人とぶつかりそうになった。

『ねぇ、聞かせてよ。君は電話しなかった間どう思ってたかな。放ったらかされたとか思った? いつかかってくるか分からない恐怖と戦ってた? それとも、僕のことなんて忘れてた?』
「そんな、俺は……!俺、ずっと待ってて、あなたなしではもうダメなんです。生きた心地がしなくて、ずっとあなたのこと……」

背後の音が少しずつ遠ざかっているように聞こえる。移動してしまうのだろうか、ここで逃がすにはいかない。その為に、神経を尖らせる。

駅の構外に出た。日はとっくに落ちてしまったけれど、都会は光で満ちている。見渡せば案の定、構外のストリートライブを聞く人々やその周囲には携帯を耳に当てた男は混ざってはいなかった。
『なんか……君、すっごく重症だなぁ』
「重症ですよ。だから、今いるそこから動かないで」
『はいはい』

電話は切らないでいてくれた。電話の向こう側に耳を澄ませると、うっすらと人混みの音と混じってテレビで聞いたことのあるCMが聞こえた。見た時に足立さんこのビール好きそうだなって思ったっけ。駅の高架を跨いだ反対側の大きなモニターにもそれが映っている。足立さんはその近くにいる。きっとそうだ。
人混みに揉まれながら歩道の狭い高架下を通って行く。早く行かなくちゃと俺を急かすのは何だろうか。高架下を抜ければあの人はもうすぐ、そこ。

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