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__ ぐずぐずとやさしいひと(足主)

※オリジナルキャラクター、2016年1月時点のP5情報、捏造有り

僕は子どもが嫌いだ。
今も昔も。
何を考えているのか分からないし、すぐに泣き喚き、我が儘を言う。騒がしくて、嫌い。
ああ、菜々子ちゃんは例外。
出所して数日、僕は一旦堂島さんの家にお世話になった。
5年振りに会った菜々子ちゃんは一人前の女の子だった。赤いランドセルを背負ってたなんて思えないくらいに背が伸びた。堂島さんも、甥っ子の彼も背が高かったから血筋なのかもしれない。
再会した時は距離感が掴めずよそよそしかったけれど、打ち解けてしまえばシチューって言える様になったんだとか、昔の話を思い出しては今と比べて語ってくれた。
誰?なんて言われるんじゃないかと思っていたから拍子抜けだった。
堂島さんはそんな菜々子ちゃんに毎日早く帰ってこいとか飲み過ぎるなーとか言われているらしい。段々と嫁に似てきて怖いんだとか。

元々、堂島さんの家に泊まるのは数日だった。言い方は悪いけれど、殺人犯がまた稲羽に戻って働いてるなんてどうなるか分かったものじゃない。それと、職もないしね。
だから、都会で喫茶店を営んでるとかいう堂島さんの甥っ子の元で働く事になった。彼、確か頭が良くていい所の大学に行ったと聞いていたけれど喫茶店を開くなんてどういう風の吹き回しなんだろうか、と思う。

って、そういう事を言いたいんじゃない。子どもが嫌いという話。
そんなことを語ったのは隣に女の子が居るからだ。
誘拐ではない。断じて。
勝手についてくるだけだ。

最近怪盗でウワサの渋谷。そのど真ん中、人でごった返す駅の地下街で彼女に捕まった。
名前はハルカ。 漢字に付いては何も言っていないので知らない。
多分中学生くらい。黒い髪を一つに縛っている。灰色のパーカーを羽織って、下に白のTシャツ、紺のフリルスカート。ちょっと短くて見てられないのは僕が昔の思考をしているからか、どうなのか。
聞くところによると家出の最中だそうで、それ以上の個人情報についてはノーコメント。
何故僕についてくるのかと聞くと暇だから。今日はあなたに決めたとかなんとかと言う。
今日はってこいつはいつもこんな事をしているのか?
もしや、僕が5年世間を知らない間にこんなことが流行っているのか?
と思ったがそうではないらしい。
よく良く聞くとなんかびびっと来た。運命だと思う。とか。益々訳が分からなくて彼女の話はまともに聞かないと心に決めた。電波ってやつかもしれない。家はなんちゃら星ですとか言ってくるかも。
警察には届けてやろうとしたが、いやいやと首を振り、大声を出そうと暴れかけたのでやめた。僕の方が誘拐とかなんかで捕まりかねない。出所したばっかりなのに逆戻りとか勘弁してくれ。

「ねぇ。名前、名前なんて言うの?」
突然自分のことを聞かれて驚く。さっきまで興味が無いので適当な相槌をしていたのだ。それで、飽きれば帰ってくれるかもしれないという算段で。
「え?僕の名前?」
向こうは名前を教えてくれたが、僕は教える義理があるんだろうか。
というか、僕名前教えたら犯罪者だったこと、バレたりするかもしれない。あまり気が進まない。
あーとかえっととかそんな言葉しか出ない僕に彼女は眉を潜めたが、暫くしてあ、と声を上げた。
「……名前教えてくんないなら、あたしの学校の先生と髪型似てるから、センセイって呼ぶね」
なんだそれ。とは思ったけれど、名前がバレないならそれでいいや。とも思う。前に彼がセンセイって呼ばれてたことあったっけ。
「センセイだめ?」
「何でもいいよ、適当に呼んで。それで、君のお家は何処?」
とりあえず無駄だろうけど聞いてみる。犬のおまわりさんでも初めはこれだ。あれは迷子だっけ。まぁどうでもいい。
「君じゃないの、ハルカって呼んで」
「はぁ?」
「センセイ言葉が荒み始めたね」
「こっちは君のせいで行く所遅れそうなんだよ……」
遅れそうというか、大幅に遅れているんだけれど。出所したばかりで向こうで携帯も契約しようと思っていたから連絡手段もない。あるのは財布とちょっとしたもの。あとは全部ダンボールで送ってしまった。
「じゃあいいや。そんなに気にしてないし。でも家はナイショね!」
「ああ、そう」
めんどくさい。なんて言葉が出そうになったのを飲み込む。もうこの声色でめんどくささは伝わってると思うけど。
どこかの星じゃなくて良かったよ。
「ね、センセイは今からどこか行くの?」
「喫茶店」
「センセイって平日なのにお仕事無いんだ。あたしも連れてって!」
「……」
「痛い……」
「そんな強くやってないよ」
「やったもん、身長縮んだらどうしてくれるの!」
きぃきぃとやまかしい。都会の子はいつもこうなのか。頬を膨らませて怒る彼女に呆れる。背くらい気にしなくてもいいのに。それより、じろじろと脇を通る人が僕らを見るのが気になる。
「そんなことで縮んだりはしないよ。なんというか、引越し?居候させてもらうから、お土産買っていこうかなって」
「え?じゃあ、これがいいよ」
すっと僕の袖を引っ張って近くのケーキ屋に連れてゆく。ショーケースを前にして驚く。
「えー、これすっごく高いじゃん……」
店員の前でこんな言葉零すのも迷惑な話だけれど、前にジュネスで見たケーキより高い。美味しそうなことは美味しそうなんだけど。
「私このショートケーキ食べたい!」
「お子様な選択だね」
「いいの!これにしようよお土産!」
「……何人居るか分からないからホールのやつにして」
「えー、じゃあこっち?」
「もうそれでいいよ」
これ下さい。と彼女が指したホールのケーキを店員に頼む。彼女の顔がぱっと明るくなった様な気がしたけど知らない。彼ならどうせなんでも喜んでくれるからこんな子供が好きそうなショートケーキでも喜んでくれるだろう。
店員が値段を告げて梱包に移る。やっぱり高い。仕方なく財布を開くと「お金持ちだー」なんて彼女の声が飛んだ。
残念だけど、これが今の僕の全財産です。なんて言える訳もなく。はいはい。と適当に返す。本当は、彼の元に行かなければ明日もどうなるかわからない貧乏人なのだ。だから、これ以上彼女が調子に乗ってせがむ事のないことを祈りたい。

……あ、そういえば、電話しないといけない。彼のことだから一人増えても平気だろうけど、とりあえず。
でも、公衆電話全然見かけなかったなぁ。彼の家の電話番号知らないし。って……あれ、なんで僕この子も食べるように考えてるの。

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