※学パロ
※緑→赤
※琴→シルバー
「何時に終わりそう?」
ひょこっと上半身だけを扉から斜めに出して相変わらずの無表情でその質疑の声でさえ平坦なレッドは生徒会室の扉から一番近くにいた琴音に訪ねた。
文化祭近くということもあって足の踏み場もない教室から琴音は這いだしてきた。
「うーん、まだまだ掛かりそうですねえ」
「そう、」
「もう8時回ってますし、先帰りますか?グリーンさんに伝えておきますよ」
親切な下級生に目配せをして軽くお礼を言ってから「いいんだ、待ってるって言っといて」と言い残してレッドはその場を去った。琴音は、長く着回されたレッドの制服はだれていて、まるでレッドがくたびれて見えたのは気のせいではないと思った。グリーンは毎日待たせて悪いとは思っているとは思うが、レッドはいくら何でも待ちすぎて待ち上手になってしまったのではないかと心配していたのだ。
元来思ったことは口に出さずずっと胸の奥にしまっておくばかりの先輩を横目で見てきた琴音はその行動にいらくときもあった。さすがに度を過ぎているのだ。
言葉を発せられないわけでもなく、自己意志が弱いわけでもないのだが、何故だかレッドだけは他者よりも感情表現に乏しい節がある。もちろんそれを一番理解し得るのは彼だった。
「さっきの、レッドか?」
「そうですよ」
「なんだよ、あいつメールで帰っとけって送っといたのに」
「そうなんですか?」
「おう、まだまだ書類処理と役割の分担だろ。それと、あ、会計もな」
「ゴールドくんとシルバーくんはどうしたんですか?確か会計簿つけとくように言ったはずなんですけど」
「ああ、あいつらは今買い出し」
腹減ったし、な?と笑顔を振りまいてはいるが、レッドさんのことを気にしているのは見るからに理解してしまう。痛々しい程に露見したその素振りに思わずため息をつくくらいだった。
「気になるんだったら、」
「レッドさん来たんすか!」
よっしゃあ、と小さくガッツポーズをしたゴールドと迷惑きわまりないといった顔で片手に大きな買い物袋を持ったシルバーがいた。
「じゃあ、今日こそもうお開きにしましょうよ。ね、会長」
ゴールドは身なりがこの一室にいる誰よりも整っていないが(さらに授業はてんでさぼりばかりで進級も危ないほどだ)、昔から自然にできた勉学のお陰で教師は半ば彼の闇部分に目をつぶっている面があるのは事実だった。
おまけにその生徒が生徒会会員になりたいなどと言い出した頃には職員会議にまで発展したのは、最早校内伝説となっている。レッドさんに毎日会えるだなんだと私欲にまみれた目を輝かせていた。琴音はそういう方向性で理由立てするのも悪くはないが、自由すぎるのもどうかと思うのだ。
「さあ、ゴールドくんとシルバーくんはもう一仕事やるよ!」
「なんで琴音が会長ぶってんだよ」
「じゃあシルバーくんに全部仕事を押しつけるつもり?毎日毎日飽きずにレッドさんレッドさんって。いい加減にしないとレッドさんに嫌われても知らないから」
「お前には関係ないんだよ」
「おい、」
シルバーが空いた方の手でゴールドの手をぐい、とひくと足早に室内の奥へと連れて行ってしまった。加減を知らないその手は鈍い痛みを与えて静かに作業を始る。
それからグリーンは琴音と彼らを双方に何度も見直し何かに納得したのか腕組みをして大きく一人で頷いていた。
時計の針は刻々と動き続け、すでにレッドのと会話から小一時間たった頃だった。窓の外を見ても一面暗闇で闇が広がっている。まだ少し肌寒く夏服はつらい。
「琴音はさ、シルバーのことどう思うよ?」
唐突で不躾な言葉に目を見開いた琴音は何事もなかったかのように廊下を歩き続ける。書類を職員室に取りに行くのにグリーンに手伝わされているらしく、唇を尖らせぶつくさと文句をいう。
「なあ、聞いてるか。聞いてますか琴音さん」
「グリーンさんっていつも突然なんでこっちはどう答えたらいいのか時間くらい寄越してください」
「あ、ごめん」
グリーンは、しおらしく地面とにらめっこを始め琴音の返答を待つ。
「・・・そうですねえ」
うーんと首を捻り手を顎にあてて唸る。
「好きですよ」
「やっぱりか!だよな、だよな」
「なにがですか」
「いやさ、俺は前からお前らのことあやしいなあって思ってたわけだよ」
グリーンんは、やっぱりなあと何度も復唱しながらまたもやうんうんと頷く。
「で、どっちからなんだよ」
「どっちからって、なにがですか?」
「告白だよ、こ、く、は、く」
一字一句切って丁寧に聞かせる。
「好きなのはわたしだけなんです」
苦笑いをする琴音をみてか、グリーンは頭をかき素直に謝罪をした。
「いいんです。わたし一緒にいられるだけで幸せなんです。寧ろ今の関係が丁度居心地がいいというか、大体彼は他に好きな人がいるみたいなんです」
「へえ、もったいないことするよなあ、あいつ」
文化祭用の資料を職員室前でホッチキスで留めていると、こぎみよいぱちんという音が耳に響く。廊下という広い広い空間に音が浸透したかと思えば、また静かになる。
「そういうグリーンさんはどうなんです?」
残り少ない資料をゆっくりと丁寧に留めているのは、相手の反応をゆっくりと待てる琴音らしい行動だった。ぱちんぱちん。
「俺はよくわからないから。絶賛募集中ー」
「・・・意外ですね」
「俺もそう思う」
「思慮深いんですか」
「まあ、否定はしないかな」
自重気味に含み笑いをする。グリーンの周りにはいつも女の人が群がっているのが見えるが、彼は全く興味がないということらしいのだ。
「レッドさん、」
「へ?」
「レッドさんなんてどうですか」
自分の一言で人をここまで赤らめたのは、グリーンがはじめてだった。顔を片腕で覆って服の裾で完璧に彼の顔は伺えなくなってしまう。
「あ、あいつは男だろ」
「愛に性別なんぞ関係ないんですよ。レッドさんが嫌なら取り巻きの女子を適当にでも口説けばいいじゃないですか。簡単なことですよ」
「琴音、」
「どうしました?」
グリーンは何度か口をごもらせて言いたいことがなかなか口からでてこないらしかった。
「いいのかなあ」
「レッドさんのことですか」
「いいのかな、好きになって」
琴音はふわりと笑みを浮かべて目を細めた。口元に手を当てて軽やかに微笑する。
「気持ち悪くねえかな」
「いいんですよ」
彼はただこの言葉が欲しかっただけなのかもしれない。
思っていても言葉に出せないほど辛いことはないという同じ痛みを抱えている彼女だからこそ言える言葉なのだ。
「それが、いいんです」
惜しみなくね
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学パロがなにも活かされていないのでした。要は、学生なんだから体当たり恋愛くらいしたっていいんじゃないのってことです
title:にやり
100902