「靴ひも、」
Nが咄嗟に出した言葉にはちゃんと意味があった。それは魔法のようなものなのかもしれない。いや、これはただ予測だってなるべくしてなった結果なのだが。
「痛い!なんだよ、これ」
「だから言ったじゃないか」
ブラックは怪訝そうな顔でNを見ていた。お前、もっと事前に知らせておけよばか、とブラックは勝手にふてくされてNよりも一歩前に出て速歩きになった。
「早い早い」
「あんたよりも一歩先を行っててやるよ。俺の方が大人だ」
「子供っぽいなあ」
怒ると早足になるのはブラックの癖だった。その癖を癖だと自覚していないのか、ブラックはいつも早足になる。
感情が見えないブラックのことがよく分かっているNは、彼の癖一つ一つが大切になった。なぜなら、彼が唯一彼を知ることができる方法と言えばそれくらいしかないからだ。
秩序ある世界の中で、どれだけブラックのことを知ることができるのだろうか。ルールに準じて知るには限度があるに違いない。
「ねえ、キミはボクのことを好いていてくれるかい」
だからなによりも確かな言葉が必要なのだ。魔法のようなことばを操り、Nは確かなものを得る。
そんな激しい感情を持ち合わせて、終わりを迎えるのも悪くないのかも知れない。
△魔法使いは旅にでる