「泣いてみろよ」

真正面に見据えると、いやにこいつが大人に見えてしまう。絶対そんなはずはないのに。
誰よりも何よりもこどもであるのに、こいつの瞳はどれだけ深い悲しみを映したのだろうか。例えば、俺自身がその悲しみを想像できたとしよう。
痛みを抱えながら、それでも目に見えない強さを得るために歩き続ける。もう、あんたは十分に強いはずだが気づきはしない。
誰もあんたの強さを誇ってくれるニンゲンはいないからだ。
そんな強さなど捨ててしまえと、浮いた思想を捨ててしまえと、誰があんたを叱ってくれたのだろうか。

「ボクは、泣かない」

ぐっ、と唇を噛み切りそうな勢いで堪えているようだった。
あんたの周りに流れているその感情はなんだ。冷め切った自身を露呈されているようで、腹が立った。ぐるぐると正しいことや、正しくないことが肺や胃に流れては、ああ、なんて自分は嫌な奴なんだろうと思った。

「泣かないことで、なんのメリットがあるんだ」
「キミだって、ボクの前じゃ泣かない。いや、誰の前でだって泣かない」

ミント色の髪が風でなびき、そこからその匂いがほのかに香ってくるような錯覚に陥る。
きれいに整った、あいつの真っ白い頬にお綺麗な雫が流れるのだろうか。

「キミは誰にも弱さを見せない」
「俺に弱さなんてない」
「弱いことは悪いことなんだろうか」
「さあ。あんた自身で考えてみればいい」
「相変わらず、ボクには冷たいなあ」

眉根を緩めて、へらっとやさしく笑いながらミント色は言った。
どぼん、と海に落ちた気がした。
今、どこに遊泳しているのだろうか。いや、遊泳できているのだろうか。ただただ、深く深く深く沈み続けて、息を失してしまうのだ。故意に自身を冷たい深海へと押しやり続け、自身などこの世のどこにもいなかったのだと冷たくあしらえばいいと、それが正しいことなのだと、酸素を吸って二酸化炭素を口から吐き出すように、それが生きることになっていた。

「ほら、手」

目の前で、雪のように白い手を差し出されて困惑した。

「冷たい」

片手をあいつの両手で包まれて、じいん、と熱が籠もる。血液がどくどく激しく流れていく。心臓が苦しそうに時と共に鼓動を打ち付け暴れ回る。

「こういうの、あれだろ。手が冷たい人は心があたたかいってやつ」

おどけた調子で、声が上擦る。うまくはなすことさえできない。

「そうだよ。キミはやさしい。心があたたかい。キミは強い。でもやさしいから弱い。それでも泣いて欲しい」

一秒、二秒、スローテンポで流れる意識を他者視点から見下ろしているようだった。

「キミが泣くとき、ボクも泣いてしまう。キミのその悲しみを知りたいから。少しでも、キミを知りたいから」

ふうん、となんともないように呟いたけれど、多分知られていたのだ。
俺は弱い。泣くこともできない、ひどく脆弱で汚い恋をしているのだ。


アルミホイルに
包まれた


は六角電波の
影響

受けない

(好きな相手に見せる涙が、強さなのだ)

20110324


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