やあ、また会ったね。え?あんたなんか知らないだって?ははは、そうかもしれない。かもしれないだんて、随分曖昧な言い方をするって思ったでしょ。
そうそう、なら、ボクも君のことを知らないということにしておくよ。だって一方的にキミのことを知っているという輩がいても気味が悪いだけだ。でも、これだけは言えるんだ。ボクはキミにまた出会えてうれしいよ。その逆も然りってことだけれど。意味は分かるだろ。ニンゲンの感情は複雑なんだ。悲しければ泣けばいい。
嬉しければ笑えばいいのに。
そんなこと、しようだなんて考えないだろ。感情をひねくれて考えてしまう。じゃあ、こう考えてみようよ。キミがボクのことを知らないと答えたのは、キミがボクに会いたくて仕方がなかったけれど感情をひねくるような真似をしている。
知らなくてもいい。ボクもキミのこと理解しようとなんてしなかった。分かり合おうだなんて思わなかった。

「あんた、誰なんだよ。」

うん、そうやって聞かれるだろうって予想してたよ。そうそう、キミって運命とか宿命って信じる質かい?ボクにはキミの思考まで計ることができないからね、一応参考までに意見を聞いておきたかったんだ。

「さあ、運命とか宿命とか結局考え次第。考え次第と言っている時点で、変わるって俺は考えてるのかもな。って、なんで初対面のあんたにこんなこと話さなきゃならないんだ!」

なるほどね。もっと突っぱねてくるのかと思ってたけど、相手のことを認識しづらいほど、キミは他人に開放的なのかもしれないね。ふうん、なるほどね。

「あんたの髪、触ってみてもいいか」

ブラックは、Nの髪にそっ、と触れた。壊れ物を扱うかのように、なんか思い出せないのも癪だ、と反芻するように緑色のそれを何度も撫でた。目立つ髪色をしているのだから、思い出せないわけがないとブラックは自身を問いただす。
相手がなんにしろ、こんなに特徴のある人間の記憶がないというのはどうにも気になるのだろう。枝毛がひどいなあとブラックはため息を付く。今すぐにでも風呂にぶち込んで髪を洗ってやりたいとさえ思ってしまうほど、傷みの程度が重度だった。折角こんなにきれいな色をしているのにもったいない、と見ず知らずの(実際どうだったか、まだこいつが誰だったか思い出せない)相手に口走りそうになった。
ブラックが髪を撫でつける度に、Nは俯いて目を強くつぶった。ブラックは痛いことなどしていないはずなのにと不思議に思う。子どもが親に叱りつけられたように悲しげに俯き、触れられることに怯えているように見えた。

「俺が触るの、そんなにイヤか」

思わず突っぱねたような、かわいく言えばいじけているような声でブラックはNに問いかける。自身の声音が意識的で無かったのか、はっと我に返ればブラックの顔は赤くなっていた。
さらに向かい合っている相手の髪を撫でつけていた手を、驚く早さで引っ込めると、片腕で顔を覆った。

「あ、いや、そうじゃなくて、」
「なら、なんでそんなに怯えてんの。俺、あんたのなんだったの。あんたにとって、俺は、恐怖の対象でしかなかったのかよ」
「そうじゃなくて・・・」
「もう、いい!」

自らの片腕で塞ぐ口から発せられることばはくぐもっていた。相手に知られたくないなにかがあるのか、なるべく声から感情が露呈しないようという行動かもしれない。

「ブラック、キミはボクの言うことを信じてくれるかい」

Nの金色の瞳は刺すように痛い。ブラックは目が眩んだかのように目を細める。

「ボクはN。キミのトモダチさ」

そう、キミはボクの前で4回死んだ。正しく言えば、ボクの夢の中で。1回目はキミのことをボクだって知らなかった。だけど、たくさんはなしをしてくれたんだ。こんなボクを敬遠せずに、バカだなって一蹴して頭を叩かれた。夢なのに本当に痛かったんだ。笑えるでしょ。
またボクの前からキミは消えてしまうんだ。キミに触れられる度に恐くて恐くて仕方がない。
夢の中でキミに会う度にうれしかった。
でも、夢の中でキミに会ってしまう度に落胆した。
だって決まってボクの前で死んでしまうんだ。キミは泣きもせず笑いもせずボクをまたひとりにするんだ。キミに代わるニンゲンなんていやしないんだ。ボクはキミが側にいてくれればそれでいいんだ。

「あんた、バカだろ」

ブラックもNも向かい合って俯く。乾いた声でブラックは言う。

「あんたに代わる人間だっていないんだ。俺はあんたを知らない。それでも4回死んだ分だけ、生き返ってあんたに会いに来た、っていうはなしにしとく」

Nはブラックと真っ直ぐ目を突き合わす。今にも崩れそうな、ブラックより余程脆そうな細い肩を抱いて、愚図る子どもを寝かしつけるように耳元でささやく。

「ほんと、あんたバカだよ」

もう一度ブラックはほのかに笑いを含んで、やさしい笑みでそう言った。Nの金色は歪み、大粒の涙が真白い頬に流れた。



キミが


夢を四回見た

(五回目は、ない)

20110207


タイトルは柚子さんからいただきました。30000打ありがとうございました!
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