「月がきれいだな」

あれから一周回ってすぐに観覧車から降りて、自宅まで徒歩で帰ることにした。ライモンシティからは結構距離があるが、今はなんだかあいつと歩いていたい気分だった。寒空の下ではあ、と息を吐いたらNに久しぶりに会ったときに見た雪と同じくらい白かった。Nはポケットに両手をつっこんで俺の隣を歩いた。

「カラクサタウンって、そういえばお前とはじめて会った場所」
「へえ。ボクここでキミと会ったのか」

俺と同じことを確かめるように復唱した。

「それで、俺と別れるときには夢を叶えろって言った」
「ボクって、キミには無責任なことばかり言ってるなあ」
「それもそうかもな」

Nより先へ脚を弾ませ、俺の影が月の光でのびる。あいつは俺に観覧車のなかでしたことをまだ申し訳なく思ってるらしく、ごめん、ごめんと執拗に繰り返した。俺は気づいた。なぜあの時に気持ち悪く感じなかったのか。そもそも記憶を無くしたあいつに対して過敏に反応していたのも、全部こいつが大切で全部全部受け止めてやりたかったからだ。すう、ときれいな冷たい空気を吸い込めば肺が満たされた気分になった。

「俺はずっとあんたに会いたかった。なのにあんたは俺のそのくだらない夢をないものにしようとしたなあ」

両手を首の後ろに回して、くるりとNの方に向き直った。

「俺、あんたが好きなんだろうな」
「へ?」
「俺、あんたに忘れられてもいいなあと思ったんだ。あんたがあんたのままだったらそれでいいよな。俺が、俺のことを知らなくちゃいけないって勝手に思いこんでいただけで、俺はあんたが大切だから。多分もうそれだけでいいんだ」
「・・・うん、」
「ありがとう、俺あんたにまた会えてうれしかった」
「ブラックくん、」
「俺、ばかだな」

Nがうつむいたまま動かない。どうしたんだろうか。顔を片肘で覆ったままのNの顔色は暗くても分かった。朱色が一段とかかっていて、どうしたんだろうかと近寄った。

「キミ、やけに今日は素直だね」
「へ?」

Nは、俺の手をつかんで体ごと引き寄せた。それから背中に手を回して肩に顔を埋めたNをじいっと見つめた。

「ボク、キミが好きだよ」

くぐもったアルトが肩で響く。
「ボクは全部思い出した」
「な、なにを」
「ボクはキミが好きなんだ。キミと同じくらいキミを大切に思ってる」

ぎゅうっと抱き寄せられた肩は痛いくらいだった。

「、ばかだろあんた」
「うん、ごめんね」
「・・・おかえり、N」

冷たい冬の風も気にならないほど、お互いの体温を感じた。俺もNと同じように肩に顔を埋めた。


追憶を遂げる

20110101
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