「ごめんね」

Nはまた俺に謝ってきた。いい加減それもうざったいんだ。さっきから何回も言ってるじゃないか。

「もういいから」
「あ、あの、ボク、キミのことなんて呼んだらいいかな」

にこやかに俺に返答を求めてきたあいつのせいで気が抜けた。別になんだっていいよ、と投げるように答えたがNはうれしそうに、じゃあブラックくんと言った。なにがそんなにうれしいのかどうにも理解できなかった。

「ねえ、ブラックくん。ボク、キミを見てるとね、心が締め付けられるように痛いんだ」
「わっけわかんねえ、知らない」

痛いとか知らない。もうあんたのことが分からない。

「だからね、ボクはきちんとキミのことを思い出したいんだ」
「ふうん、あっそ」
「だから、キミとどんなところに行っただとか、どんなはなしをしただとか。いろいろ教えてほしいんだ」

俺はあんたのことなんて1も知らない。だから俺のことだって知ろうとしなくていい。片手で頭を軽くかくと、もう今日日何回目か分からないため息をついた。チェレンとベルを先に帰しておいたから、もう少しきつくこいつに当たっておきたかった。そんなことしてもなにも変わらないし、こどもっぽすぎるからやめた。

「あんたさ、なんで俺のこと忘れちゃったのかなあ」
「数学だったら簡単に解けるのになあ。数は複雑なようでいて簡単だから。ニンゲンはそんな風にできてないから、面倒なことが多いけれど。キミとはなしてみて分かったよ。ニンゲンといることも案外悪いもんじゃない」
「あんたも変わったな」

そうかい、とキョトンとした顔をしたNの頬をつねった。

「な、にするん、だい」
「うん、憂さ晴らし」

俺は気が晴れてにこりと笑った。Nが俺の手を頬から外して両手を握ってきた。前々からこいつの手は氷のように冷たいとは思っていたが、そんな冷たさも今は心地が良かった。

「は、なせよ」
「キミの手、暖かいなあ」

それにさ、とNが付け加える。
「キミ笑った方がかわいいよ」

Nから手を振り払い、頭を思い切り叩いた。手の痛みとともに、肌寒い外の空気よりも顔が火照っていた。Nは叩かれてもまだ笑っていたからおかしなやつだと思った。それでもそんなNの笑顔がまぶしかった。


あわない辻褄(あわない感情)

つづく
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