「どう思いますか、レンブさん」
チェレンがレンブにすぐさま連絡をとってくれたのでそらをとぶをつかってシッポウシティのカフェ・ソーコで落ち合うことにした。俺たちがついた頃にはレンブさんがすでにカウンターでコーヒーを啜っていた。
「レンブさん、急にすみません」
いやいや、と目尻にあるしわを濃くして笑った。
レンブにはNが帰ってきたことと、記憶喪失らしいことをまずは報告した。
「どうしたらいいでしょうか」
「うーむ、それは難しい問題だな」
レンブは無理に記憶を呼び戻そうと、喪失前の記憶を提示すると脳が混乱して、一生その記憶が抜けてしまうこともあるから怖いのうと2杯目のコーヒーを啜りながらはなした。だから安静にしておくのが一番だという。
「やはりそれくらいしか方法はありませんか」
「そうだな。医者ではないから、なんの確証もない。だからそっくりそのまま問題をとりあげることはできない」
「レンブさん、わざわざありがとうございました。別に忘れているのは俺のことだけですから」
自分で言っておいて、なかなか痛かった。心にのしかかるこの重みをぬぐい去りたい。しかし自己はそんなことを許してくれる気はさらさらないらしい。胸のあたりをぎゅっと服の上から握る。
「そう、・・・か。それは寂しいな」
「いいえ、俺あいつのことなんとも思ってないですし構いません」
「そう悲しいことばかり言うな。またなにか分かったら連絡しよう」
ソーコからでて手を振りながら別れを告げる。別段今と状況が変わったわけではなかった。その別れ際にNがレンブに向かって手を振ったので、なんだあいつこんな人間らしいことも覚えたのかあと少し寂しくおもった。あいつ人間らしい面をみつめていられたのは自分だけではないかと自惚れていた時もあった。あいつはよく泣いた。怒りもせずにただただポケモンへのきれいな愛で泣いた。でも今は違う。誰にでもいい人間でいる。硬質なタイルを靴で踏み込み、ばかやろうと小さく呟いた。
月に吠える
つづく