「ねえ、ボクを信じてよ」

疑わしいにもほどがある手を振り払って、一言無理だろと一蹴してやった。信じられるのは自分だけなんていうありきたりな言葉を使うつもりはなかったわけだが、どうにもそれ以外に便宜的な言葉が見当たらなかった。
信じることで得られるメリットなんてものはないというのが俺の信条だ。デメリットは当然ある。デメリットがない信用などただの悪だ。
こう考えてみると、信じるとはとても不要なことに思えないだろうか。少なくとも人一人を信じろというにはまだ時間すら経っていないというのに、無茶苦茶なことをいうやつだ。

「じゃあ認めてよ」
「なにを」
「ボクを。ボクがボクであるということを認めてよ」
「面倒、却下」
「ボクが今この瞬間に消えてしまったら、キミのせいなんだからね」
「それは別に構わないけど、あんたって一々回りくどい」
「こういわなきゃキミはこっちを見さえしないじゃないか」

突然目の前が闇に包まれた。なんだ、また面倒だな。

「目に見えるものほど危うい。そして繕っている。完璧であろうとする」

Nは続けた。

「完璧であろうとするよりも、少し不完全で無愛想なキミと生きていきたい」

目の前は未だ闇。

「キミはどう」

目隠しされていた手が離された先には、にこやかなNが僕の顔を逆さまにのぞき込んでいた。俺と生きていたいだなんてずいぶんと物好きな奴だ。
でも今だけはその言葉を信じてみたくなった。信じることは目に見えないほど確かでない。それでも、不完全でもそのままのあんたを認めてしまった俺は、これまた随分と不完全だったことはいうまでもない。


∵他の誰かの信じ方
101214
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