「僕はノボリが好きなんだ」
「ありがとうございます。わたくしもです」

くしゃりと笑って見せたクダリは、今にも泣きそうだった。わたくしはなにかしてしまったのだろうか。可笑しい、いつもと違う、いや寸分の違いのようで多分わたくしにしか理解し得ないほどのものであった。しかし、それをこの顔でしか受け止めることができなかったわたくしもまた、下手くそなくしゃりとした笑顔とも呼べないような、てんで可笑しな顔をした。無理しなくてもいいんだよ大丈夫、とクダリは言う。そんな応えを求めて、わたくしはあのような所作をしたわけではないのだ。

「違います。わたくしも、クダリと共に笑ってみたいのです」
「似合わないよ」

ぴしり、不快な不穏な音が聞こえた。深い深い海の底から無理やり叩き起こすような怒りを覚える。わたくしは、あなたのために一生懸命に同じになろうとしたのに。これでは駄目なのでしょうか。いけないのでしょうか。似合わないことをして、あなたの心をびくびくと探っているわたくしは存在してはいけないのでしょうか。

「それに、クダリの言う好きは多分違う。僕とは違う好きだから、そんなの聞きたくない」
「なにを馬鹿げたことを」
「ノボリに僕のことは分からない」

耳を両手でふさぐと、クダリはスタスタと歩いてしまう。違う好き?何故あなたにそんなことが分かるのでしょうか。あなたこそ、わたくしのことをなにも分かっていないのでしょうが。だって可笑しいでしょう。普段崩したくもないこの顔で、眉毛を寄せて苦笑いなどしますか。こんな顔、誰かに見せたとがありますか。
理解しているようで、寸分以上違うわたくしたちが向かう先はどこにあるのだろう。このままではいけない。わたくしは、このままでは言ってしまう。クダリが行ってしまう。無機質なわたくしは、有機質な彼の手を掴んだ。背中は、寂しく揺れた。

「離してよ」
「わたくしは、クダリのことは分かりません」
「僕もノボリが分からない」
「でも、わたくし、ノボリ自身のことは分かります」
「だから、なんなの」
「わたくしは、あなたのことが好きなのです。これでは駄目なのでしょうか」

例にもなく、わたくしは顔を必死に繕った。せめて、少しでも好きと好きの距離を埋めたいから、クダリの手を力強く握った。

「ダメじゃ、ない」
「・・・ありがとうございます」

クダリは泣いていた。





重なる
ことは
難しい


101114
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テーマ「人外ファンタジー」
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