「なにか勘違いしています」

その眼鏡の少年は癖っ毛を揺らしながら、少年らしからぬ視線と声音でボクを否定してきた。どうにもこの生真面目そうな彼とは交われそうになかった。うまく生きて行くには、妥協すること然り、自ら低姿勢でいかないと面倒が増えることを知った。

「あなたは、自分のことを過信しすぎている」
「ふうん・・・、だからどうだっていうんだい」

なによりも信条がぶれるようなニンゲンは危険だ。同時に愚かしい。ここと決めたのに、あそこもと言い始める輩こそ全く無価値に等しい。

「強くなりたいと思ったことは?」

あるか、ないかという二択で攻められているのか、それとも己の意見を述べよと催促しているのかどちらか告げなかったが、恐らく前者だと思い(そもそも彼は人の意見に貸す耳は持っていないように感じた)、あるよ、と応えた。その時、彼の目は先ほどよりも慎重そうに、且つ、真剣に瞳を細めて口に拳を当てた。あの頭の良さそうなポーズや仕草は癖なのだろうか、周りを気にせず独り言もはじまり、ボクはため息を吐いた。

「じゃあ、守りたいものは?」

これも前者のような回答でいいのだろうか。

「あるよ」

ふうん。大した興味もなかったかのように癖毛はつぶやいた。

「あなたの守りたいものになんて、興味はさらさらないけれど、これだけははっきり言ってやらなくちゃと思ってたんです」
「なんだい。やけにもったいぶった言い方をするなあ」
「ブラックを傷つけないでください」
「なにを突然に」

一体どんな文句を垂れるのだろうかと身を構えていたが、なんて拍子抜けなんだろう。

「あなたは、危険因子にしか思えない。けれど、あいつはやさしいから多分あなたを拒絶しない」
「そうかい?ボクは随分彼に嫌われているようだけど」
「やさしさなんです」
「あれが?」
「不器用なんですよ」

ニンゲンって難しいなあ。
ニンゲンってずいぶん勝手だなあ。
ニンゲンって面倒くさいなあ。随分長くのばし続けて、傷んできたミント色の髪に指を通してから、頭を軽くかいた。それから、どこか遠くを見つめる。
癖毛の彼が言いたいことは一体何なのだろう。ボクが彼に持っている感情は、興味という一言に尽きる。ただ己の不安や焦燥感をぶつけられているだけなのではないかと思った。自己管理が行き届いていないなあ、と呆れた。
こういうタイプが一番好かない。それこそ過信しているのは彼ではないかというくらいの言われようだ。

「じゃあ、君が強くあればいい。彼を守れるくらい」

ボクの一言が空気を伝い音になると、辺りが静寂に包まれ始めた。揺れる癖毛は悔しそうに拳を握って、瞳を震わせる。あ、泣いてしまうかなあ悲しませてしまったかなあ、と少々気負いしたが、彼は彼自身を傷つけるなとは言わなかった。だから、これは許容範囲内だろう。
顔を腕で覆ってから。それから癖毛は、そんなこと分かってると小さく呟いた。



だって世界一よわい
(ニンゲンはよわい。君もボクも彼もよわい)

101024
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