※学パロ


成績不良という学生にとって好ましくない烙印を押されてしまった。それというのも、点数が足りなかったという(自分にとっては)些細な出来事に過ぎなかった。基本的に頭を使うことが嫌いではないのだが、如何せん努力をすることが苦手だった。それこそ努力をするという点において才能が発揮されなかっただけなのだ。

「で、どうしたの」
「追試がある」
「僕にどうして欲しいんだい」
「お前、頭いいでしょ。だからでるとこ教えて」
「君と違う学校なのに、対策もなにもないよ」
「それをどうにかできると思ったから、お前に頼んだんじゃないか」
「フーン」

Nは、人差し指で教科書の端を摘んで目を軽く通し始めた。見たこともないような数の羅列に公式。なんの意味を成すこともないであろうそれらを頭にぶちこめといわれ、はいそうですかの二言、三言返事でことが済むわけがない。顎を机につき、やることがなく暇になってしまったので部屋を見渡した。Nの家にくるのは何度目かなので、大体の物の位置も把握している。Nは普段から一人暮らしで、バイトをしながら生計を立てているらしい。
視点を教科書に戻そうとすれば、不意にNと目があってなんだか気恥ずかしい。目のやり場に困った末に、自分の手元を見つめることに決めた。パラパラと無機質な音に支配された空間にいるとなぜだか自分の呼吸音が気になってくる。

「ねえ、ブラックくん。これ、この前僕が説明したばかりの公式じゃないか」
「うん」
「うんじゃなくて・・・、はあ」
「ため息をつくなうざい」

机の上に用意されたコップにそそぎ込まれていた麦茶をのどに流す。また口を閉じて、教科書をめくり始めた。過去問も見せたのでそれと照らし合わせて対策を煉っている。なんとか俺の要望に応えてくれそうだ。
Nは相変わらず顔を崩すことなく数列とにらみあっている。うーん、本当にやることがみつからない。Nの顔をのぞき込めばでこぴんをくらわされた。少しは危機感をもちなよ。うるさいよけいなお世話だ!
睫が思っていたよりずっと長くて驚いた。まるで人形のような肌は触れたら汚れてしまいそうで手をのばすことができなかった。

「よし、君に課題を今から与えるよ」
「あー、いやだ」
「まずはこの公式から覚えて。これ一個を覚えていれば結構応用が利くんだ」

早速公式からか。暗記物は得意じゃない。特に数学に置いては顕著に現れているのだから、どうしたらいいのか分からない。

「どうやったら簡単にできるんだ?」
「君の場合は努力不足」
「覚えようとすればするほど目がチカチカするんだ」
「・・・それでもこれはこの前教えた公式だから簡単だよ。ほら、まずはやってごらん」

Nは、向かい合って座っているので教科書が俺からも見易いように、位置を変える。こいつはこういうところがいい。小さな気を利かしてくれるというか、いいやつだ。それでも、頭に入らないものは仕方がないのだ。それでも留年は避けたい物なので、必死にペンを走らせながら覚えてみる。ああ、もうメモリー不足だ。これ以上、人間の脳に情報を送り込めるわけがない。

「無理」
「無理じゃない」
「いやだ」
「いやじゃない」
「やりたくない」
「やらなきゃだめだ」

いい加減いやになって顔を伏せた。教えを請うたのはこちらからだが、眠気もおそってきていて最悪のコンディションだった。

「起きなきゃだめだよ・・・、ブラックくん」

額に生温かいものが押し当てられる。

「ちょっと、汚いな」

額にキスをされた。服の裾で拭き取るように額をなでた。なんなんだ、不可解な行動をしないで欲しい。

「きっと簡単に、覚えられるよ」
「・・・本当か?」
「うん、とっておきの方法」

にやりと口のはしをつり上げて、気持ちのよすぎる笑顔で俺の口をこじ開けた。浅いぬるい口づけを繰り返し、静かな部屋で聞こえるのは呼吸音とやけに生々しいくちゃりぬちゃりという唾液音だけだ。

「ショック療法ってやつかな」

そう言うと、床に押し倒された。随分楽しそうな顔をしているなあ。ここまできてしまったら、俺も便乗してたのしそうな顔をするしかない。こんなことで公式が覚えられるようになるどころか、先ほどまでの努力が水の泡になってしまう。最後に覚えていられるのは、俺が呼び続けるあんたの名前くらいなのだろうから。




ぐちゃぐちゃに掻き回して
(俺の脳を揺さぶって!)


(100925)
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