いい迷惑だった。俺は特別あいつを意識して生きてきたわけではないし、ましてや知り合って幾日と経ったわけでもない。それなのに俺はここまで見ず知らずのとんだ宗教的な団体に恨まれなけりゃならないのか。考えれば考えるほど吐き気がした。俺があいつになにをした。あいつが俺になにをした。
「あんた、気に入らないのよ!」
怪しい趣味の悪い衣装に身を包み、俺は壁際へ押さえ込まれていた。ボールの中に入っている彼らを傷つけたくないと、直接自らの手を使って危害を加えようとしているらしい。
正直、いたくも痒くもない。女に押さえ込まれる日がくるなど予測はしていなかったわけだが。ぎりりと有らん限りの力を施して必死に俺の腕を壁へ縫いつけた気でいる女は、さもうれしそうな笑みを浮かべた。
「ひょっと出があの方に気に入られるなんて・・・!許せないわ!あんた、どんな手を使ったの?」
どんな手だって?あいつの一方的な半ば犯罪に引っかかるようなストーカー行為を働かれたこちらとしてみれば迷惑以外の何者でもない。
「・・・、別に俺はあいつなんてどうでもいいし、どちらかといえば関わりたくない。おねーさん、俺がなんて言ったか理解できた?」
最高の笑みを女に向けて嫌みをたっぷりと含めた言葉を吐き出してやった。するとみるみる女の顔は上気し始め顔がりんごのように真っ赤になった。
「あんたにNさまのなにが分かるのよ!・・・あんたなんて消えてしまえばいいんだ」
「それは、おねーさんに決められないよ。そんな権利あなたにはないんだから」
「・・・、黙りなさい!」
口を手のひらで押さえ込まれた。息がしづらい。さらに喉元まで無理やり手で押しつぶされて、酸素を取り込もうにもうまく行かなくなる。畜生、あいつに会ってからというもの面倒事しか起きない。ヒュー、ヒュー、既に取り込むことができる酸素量はわずかに限られた。死ぬことよりも苦しいのかもしれない。ああ、女は怒らせるとこわいなあ。
「なにかいいなさいよ」
無理に決まっている。それも全部あいつのせいだ。心音は速くなり全身が脈打つ音が聞こえた。こんなことをしてNがあなたのことを気に入るのか。振り向いてくれるのか。意識してくれるのか。よく考えて欲しい。俺は立派な被害者なんだ。
「Nさまは、王であり太陽なのよ。わたしたちはその光を濃くするべく存在する影なの」
「・・・あ、がは、・・・うあ」
「その関係の中であなたはどんな立ち位置にいるのかしら?」
最後にわき腹に一発決められ、意識が遠のいた。散々あんたなんて死んでしまえと暴言を吐露され、できるならしてやるさと唇を噛みしめた。




「・・・ごめんね、ブラックくん。」
これは僕の不手際だったと続ける。かすかな振動が耳に伝わり、あいつの声だと認知する。いつの間にか別の場所へ移されたらしい。こいつが助けてくれたのだろうか。それにしても腹が軋んだ。明日になったら立派な痣になるのだろうな。今度こいつに慰謝料でも請求してやろう。
「ごめんね。・・・それでも、僕は君が」
ああ、そんなに哀しそうな顔をするな。許してしまいそうになる。
瞼の裏で黄緑色が霞んだ。



ぐにゃ
ぐにゃ



(あいつにふれるとこころがまがる)



(100924)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -