※いろいろと捏造
※観覧車ねた


黄緑色に手を引かれて、ブラックは何故だか丸い不安定できらびやかな箱に乗る羽目になってしまった。こいつがやっていることも、はなしていることも全く正確に測れない。そもそも興味も関心もないような相手にどう抵抗しろというのか。
やめろ、とでも言って手を振り払うか?違う、もっと方法があるはずだとブラックはNを傷つけないような方法を探っていた。(面識がそこまであるわけではないので、泣かせるようなまねはいけない)

「君、お金持ってるかい?」

帽子を深くかぶり直したNがブラックに問いかける。

「え、あー。ちょっと待って」

係員が眠たそうに欠伸をかみしめ、まだかまだかと退屈そうに頬杖をついた。えーっと確かバックの底にいつも財布を入れている筈だ。少しぼろが出てきた鞄の中に手を突っ込んでみたものの見つからない。

「持ってないのかい」
「確か、底に、入れてるはず、なんだ、け、ど、」

すくい上げるように手をさらに奥へ押しやってみても、なんの手応えもなかった。そういえば、遊園地に入る前にフレンドリーショップへ寄った。ああ、たくさん物を買いすぎて一回手元から財布を離した。思考回路を辿っていけば自ずと犯人が見つかった。はあ、と小さくため息をついてごめん乗れないみたいだとNに告げる。
散々探したのに置いてきてしまったとは、不覚にも程がある。それでも、こいつと二人きりであの密室の箱に詰め込まれる予定は帳消しになったも同然だ。

「それじゃあ、俺は財布取ってこなきゃいけないから」

じゃあな。そう言った。
ブラックは、自分より一回りも大きく真っ白い手に包まれていたので、やんわりともう片方の手で外す。

「大丈夫だよ。僕が君の分まで払おう」
「いいよ。俺は別に乗りたい訳じゃないし」
「君にはこの乗り物の数学的、美学的美しさが分からないのかい。それはとても残念なことだよ。なによりもこの中の景色は美しいのだから」

「・・・お前、やっぱり変態」
「侵害だな。うそつきよりはましだよね」

う、とブラックが息詰まった。やはりばれていたのか。うまく騙しきったと踏んでいたのに。人生そううまくはできていないらしい。

「君、さっきまで隣の自動販売機で飲み物買ってたじゃないか。財布も持ってるんだろ?」
「なんでそこまで知ってるんだ」「企業秘密さ。さて、これで君に一つ貸しってことでいいかな」

Nは目を細めて首を傾げてきた。いいわけがないに決まっているが、ここで払うのもしゃくだったのか、ブラックは鞄に再び手をかけるのを止める。なんの抵抗もしないと言う意味を込めて握りしめられていない片手をひらひら降った。
そういえば、なぜ自分がこんな変態に手を引かれて歩かなければならないのか。考えてみればみるほど理解し得ない状況だ。ブラックの手はまだ解放されないらしい。すでに日は落ちていたので、この恥ずかしい状況を乗り切ることができたことが唯一の救いだった。ただし、係員一人を除いては。
箱に押し込まれる直前まで手を引かれ歩いていたので、係員は怪しい物をみるような目つきで彼らを送った。Nの背中は広くて物寂しげに影を背負う。

「一周するまで時間がかかるんだ。ゆっくりと話をしようじゃないか」

がこん、と音がしてゆっくりと地上を離れる。向かい合って座ることになった。バランス云々を除いてでも、ブラックはNを隣に座らせるという所作を行わせたくなかったらしい。

「ゆっくりと話?なにかあんたと話をしなきゃならないことなんてあった?」
「折角なんだ。話をしようよ」

ガラスに隔てられた街の景色を展望してみたものの暗すぎて故郷すらどこにあるのか分からなかった。ライモンシティの街並みは昼間にあった活気とはまた違ったきらびやかで幻想的な視界が広がっている。遊園地の明かりはこどもたちを喜ばせているようでブラックのように手を引かれる母親の姿が微笑ましかった。

「人とは、数式の上で成り立っているようなものだと思わないかい?」

足を組んで顎に手を当てる仕草は、なんともNの変態さに似合わず様になっていると思った。容姿だけは認めてやろう、容姿だけは。明らかに鬱陶しそうな髪を束ね直す姿も同性ながら目を見張ってしまう。長い睫もよく通った鼻筋もまさしく数式のように整っていた。

「特に顕著なのは君の幼なじみさ。彼らの言動を踏まえた上で手に取るように性格が分かってしまう。言ってしまえば彼らは単純なんだ」
「あんたみたいな人間、早々いないだろうから言っておくけど。あんたが思っているより、チェレンもベルもいろいろと背負う物もあるだろうし考えていることだって生きてきた環境によって違うんだ。そんな風にひとくくりにするな」
「なんだ、ブラックくん。君も怒ることができるのか」
「別に怒ってなんかない。ただ、あんたは逸脱してるおかしな奴だって気づかせたかっただけだから」
「なに言ってるんだい。君の方がよっぽど逸脱してるさ。君は数式のようにはいかない。どんな公式を当てはめたとしてもイコールにならない」
「数字だけで人が理解できるのなら、とっくに先人が成し遂げてる」
「僕は君のそういうところに惹かれているんだ。興味深い存在だ」
「ふーん。気持ち悪いし胸くそ悪いなあ」
「ほら、そういうところだよ。そんなにかわいい顔をして、汚らしい言葉を平気で吐くところなんて僕好みに逸脱しているよ」

キモイと吐露すれば、黄緑色がくすりと笑った。軽快に肩が小刻みに震えている。

「僕のトモダチになってくれないかな」
「しゃべるな、ばか」
「トモダチにそんな口を聞くのはよしてくれないかな」
「あんたなんか友達じゃない」

黙れ黙れ黙れ変態。黙っていればましなものを、わざわざ自らの欠点を晒すのだから頭が全くよろしくない。ブラックは、続ける言葉も見つからないうちにてっぺんまで残すところあと少しとなった。
饒舌であるNが途端に口を閉じて顔を両手で覆ったので、ブラックは思わず目を見広げてしまう。もしかしたら泣かしてしまったか。さすがに言い過ぎたか。
ブラックは、少ししおらしくなってしゅんと肩を落とした。
ゴウンゴウンと低音が丸い箱の中で鳴り響き振動する。重力に逆らい上へ上へと目指した結果の不良音だ。それともただの老朽化か。園内の照明に近付いたのか目が眩む。

「トモダチでないなら、君に意地悪したっていいよね」
「はあ?なにそれ。なんのギャグだよ」
「意地悪するなら君が嫌がることをするのが一番だと思うんだ」
「今この状況自体嫌なんだけど」

宙に浮いたような錯覚を起こした。いや、実際錯覚なんかじゃなくてブラックの体は半分くっつけていた背のイスから離れていて前に倒れかかるような状況だった。Nに手を掴まれたと理解するのに数秒か時間を要した。同時にN側へひっぱられたのが錯覚の原因なんだと腹立たしさを覚える。

「なにすんだ、手なんか握るな!あんたの手って、」

冷たい。続く言葉は閉ざされた。ねっとりとした熱で唇を舐めあげられ、ぞくぞくした。手に反して熱すぎる彼の舌は生き物のようにブラックの唇を這いずる。反抗の言葉もする間もなく、中をこじ開けられて歯列をなぞられた。歯一本一本を確かめるようにゆっくりとした行為が煩わしい。

「ね?」

一回唇から離して唇を再び寄せてきたので、再びあのような訳が分からない行為を強いられるのかと思ったが、一旦その動きを中断してブラックの帽子に手をかけた。

「もっと君の顔をよく見たい」

癖毛が目立つから普段帽子を外すのを躊躇うのに、いとも簡単に外されてしまった。ブラックは、手で髪を押さえようとした。しかしそれすらもNに阻まれる。

「僕はね、君が嫌がることをしたいんだ」

好きな子ほどいじめたくなるっていうでしょ。Nにそう言われれば、抵抗するのも面倒になったので身を任すことにした。
地上まであと半周。なんとかそこまで絶えるんだ。
降りたら絶対に殴ってやろう。髪をむしってやりたい気分だ。

「やっぱり君は数式通りにはいかないね」

Nはうれしそうに帽子を元あったブラックの髪に戻した。

「抵抗してくれたらもっと燃えたのに」
「・・・あいにく俺は、キスのひとつやふたつくれてやったって構わないんで」

頭を撫でられたので今度こそ手を払いのけてやった。たいして何もなかったかのように、Nは背中をぴたりとイスにつけると、下に降りるまでは景色を楽しもうと言った。

「なんでこっち見るんだ。景色を見たいのなら、窓を通せ。俺を通すな」
「ん?僕は、景色を楽しんでるよ」
「・・・勝手にすれば」
「そうさせてもらうよ」

Nの顔は歪むことなくただひたすらブラックをにこやかに見据えていた。それがなんだかむずがゆくて恥ずかしく感じたのは気のせいだと思いたかった。







あなたは宇宙

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Nがよく分からない、ブラックくんがひどいやつ、最後に視姦というトリプルパンチ。
宇宙のようにNが不可解な存在だと思うブラックくん。
(100923)
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テーマ「人外ファンタジー」
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