※ブラッキー視点
※一人称は私
※死ネタ



私のご主人は心優しい方だ。それから、不器用で心配性で誰よりも嘘つきだった。嘘つきといっても、誰かが害を被ったりといった悪質なものではなくただのこども騙しだといっても過言ではなかった。
心配性という性格が顕著に示されるのは、あの赤い目をした方に会うときだった。私のことなどすっかり忘れているかのように、あーだこーだと相手を言葉でまくし立ててから帰って行く。私は少し嫉妬心を抱いて、赤色の人から差し出された手にそっぽを向いた。与えられたポケモンフードも口に入れなかった。
なんだかんだで、ご主人が手料理をふるったりするもんだから当人は味を占めて「次も作ってね」と揺らぐことのない赤であの人は言っていた。無機質さと寂しさが入り混じったあの人の声音を聞く度に、私はご主人の隣で俯いていた。
あの人をご主人だという黄色とは長いつきあいだから、私はあのことをとっくに知っている。それでも私は伝える術もなければ、伝えなければならないはずの真実を嘘として受け止める必要があった。

「今日はピラフにしてみたんだ。どうだ、うまいだろ!自信作だぞ」

やはり私のことなど、どこか彼方に飛んでいて自慢げに皿を運ぶ。「うん、おいしいね」、と赤色は揺らがない。寧ろ、あやふやすぎる存在の前に、色鮮やかな瞳だけは生を保ち続けているかのように赤く燃えていた。

「次はなにがいい」

私は悲しくなって、黄色を呼び寄せると外に出ることにした。毎日と言っていいほどこの極寒の地を登っているのだから、こんな寒さ虫に刺される程度である。

『どうすればいいんだろう』『僕にも分からないんだ』『ご主人を見る度に、私はどうしようもなく君のご主人を呪いたくなる』『それでも僕はここに残るよ』『やはり君のご主人は、』『分からない。分からないんだ。もう、』『いないんだね』『うん。いないんだ』『君も悲しかっただろう。泣いてもいいんだ』『泣いたらきっと海ができる』『それでも涙を流すのが一番だ』『僕は、泣いてはいけない。誰よりも悲しいのは、グリーンなんだよ』


「おい、ブラッキー帰るぞ」

ご主人は折角作ったはずのピラフを生ゴミとして捨てていた。僕の小さい心臓が一段と小さくなり、返事をした。

「なあブラッキー。おかしいんだ。俺はいつから一人になったんだ?ここにいる意味は?俺の存在意義は?」

なあ、なんなのか教えてくれよ。いくら呼んでも返事すらまともにしねえんだ。あいつらしいだろ。それでも飯っていったら飛び上がって俺の隣にきてくれたんだ。それがなんだ。

「呼んでも、呼んでも、呼んでも、あいつは居ねえんだ」

頭をかきむしり、叫び声をあげたご主人は狂っていた。最近キズが絶えないと思っていたが、やはり自傷していたのか。腕もかきむしり始めると、あの人の目とは程遠い深紅の薄汚れた血液の筋が流れた。気にもとめず、ご主人は軽装で外へ出て行ってしまった。あの場所へ向かうのだろう。

『やっぱり君もシロガネヤマから降りてきた方がいい』『・・・まだ、埋めていないから』『じゃあ、・・・私も手伝う』『レッドは、まだ挑戦者を待ってる』『まだ、あの場所にいるのか。あの人は××でしまったのに』『レッドは××だんだ、××だ』『ごめん。私は君にそんな言葉使わせたかったわけじゃなかったのに』





あの子は××でしまった
(嗚呼、涙の海ができる)



100912
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テーマ「人外ファンタジー」
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