Others 「県大会、どこでやるの?」「仙台市体育館」「烏野は何時から?」「第一試合だから、10時くらいかな」「ふーん」「……もしかして、来るつもり?」「さあ」 という会話をしたのが4日前。今日は宮城県の男子バレー県大会。宮城は地区予選がないらしい。 もちろん来てますとも、仙台市体育館。ちょっと遠いけど、来れない距離でもなかった。あの時「さあ」って答えたけど、ツッキーには多分ばれちゃっただろうなぁ… でも、来たことに後悔はない。 差し入れも持ってきた。ミカから教えてもらったはちみつレモン。ただ輪切りのレモンをはちみつに漬けただけだけど。まあ、気持ちの問題よね! 「おー…。先週はここでバスケの試合あったんだよねー」 「そうなんだ」 「てか、今何時?」 「えーと、9時52分」 「もう始まってるんじゃない?」 「マジか」 私とミカは急ぐ。ミカ、平気な顔をしてるけど、声のトーンがいつもより低かった。彼氏のチーム、負けちゃったのかな?勝負に負けはつきものだ。 体育館のエントランスを潜り、2階の観客席へ駆けあがる。運動不足の帰宅部にはキツイぜ。 そこらじゅうでバレーボールの跳ねる音が聞こえ、シューズの擦れるスキール音が響く。気合いの入った掛け声は、女子とは違って迫力がある。 烏野高校のイメージカラーである黒色を探す。ジャージが黒色だから、きっとユニホームも黒色でしょ。カラスカラーでしょ。ちょww私、今いいこと言えたんじゃない?……調子乗ってすいませんでした。 「あ、あれだ。横断幕に烏野って書いてある」 ミカが指さしたのは、私達がいる場所より少し遠い場所だった。横断幕には"飛べ"と二文字。まるで日向君を示唆しているかのよう。 私達は烏野高校がプレーするコートの近くに移動する。結構人って来るんだねー。やっぱ中学とはレベルが違うのかな。 見事に最前列をゲットし、フェンスに寄り掛かる。相手の高校は"常波"かぁ。聞いたことないなぁ…。選手を見たところ、特別背の高い選手はいない。烏野の方は、いつも通り元気だ。見てるだけで楽しいです、はい。 ピピーッ 選手たちがネット際に駆け寄り、握手をした。試合が始まる。 烏野では、ツッキーはベンチにいた。スターティングメンバーの確認の時にはツッキーが出てたから、多分リベロがついてるのだろう。コートにはオレンジ君…ヒナタ君?がいた。 サーブは常波から始まって、ヒゲのお兄さんがサービスカット。影山がトスを上げた先は坊主の人。鋭いスパイクは相手コートに落ちる。烏野の得点だ。 「うおァァアア!!!」「らあァァ!!!」 「ナイスナイス!田中良い「うおあおあ!!!」良い出だ「ホアアア!!!」」 「うるさい!長い!」 騒がしいなぁ。小さいリベロの人と坊主の人が大声をあげて、主審から注意された。 何やってるの… その後も試合は続く。 ヒナタ君のおぼつかない速攻。この前の神業のような速攻でなく、普通の速攻だった。成長してる… ツッキーもたまにワンチとったりしてた。リベロの人のきれいなレシーブとか、バレー見るの楽しいわ。 結局、試合はセットカウント2-0で烏野の圧勝。烏野って強いんだなぁ。 あんまりツッキーは活躍しなかったけど、バレー面白かった。 「ほら!菜舞行くよ!月島君に差し入れ渡さないと!」 「う、うん」 ミカに手を引かれて、試合が終わった選手たちを探しに行く。そこら中男子高校生が溢れている。男子高校バレーボール大会なのだから当然だ。 はちみつレモンが入ったカバンをしっかり持って、階下に降りる。 体育館のエントランス付近に待機中のチームはいるはずだ。第二試合は一回戦の後半、第三試合は二回戦になる。よって勝利チームの烏野高校は第三試合まで待機しなければならない。 私たちより背の高い男子ばかりで、視界は悪い。真黒なユニホームは見つけやすいはずなのに。 ミカと2人で烏野を探す。東Bの入り口付近に彼らはいた。ツツツツッキーだ。 ちょっと待って、アレよアレ。心の準備…ツッキーに差し入れ渡す心の準備がァ、 「すいません!一回戦進出おめでとうございます!」 ミカァアアア!!!躊躇なさすぎ!私の乙女心を察してくれよ!!! 初めて差し入れする上に、そっけない会話しかできない私とツッキーだよ!!!? 心の準備いるでしょうがァァアアア!!!! 「来るなら皆がいない時に来てよ…」 「カップルで2人きりでいたいのね〜お邪魔虫は退散するね!じゃっ!」 「ちょっと!ミカ!」 ミカが上で待ってるから〜とか言いながら去って行った。 「少し離れようか」 ツッキーが烏野のチームの皆から離れる。私もおずおずと着いていく。ツッキー、声のトーン低いよゥ… 2回の応援席に向かう階段の前でツッキーが止まった。こちらへ振り返る。 「で、なに?」 「応援来るって言ったでしょ、ツッキー」 「来るって言ってはないね」 「うるさいなぁ…もう」 待て待て、渡すモンがあるんだ! 「でさ、これ差し入れ!」 私はカバンから取り出したタッパーを渡す。ジップ○ックだから、こぼれるはずはない。 「はちみつレモン?」 「そう!チームのみんなと分けてね!また応援してるから!」 タッパーをツッキーに押し付け、去ろうとする。 うわあ!恥ずかしい!カレカノみたいだ! 「ちょっと!冥地!!」 「う、何!?」 「…ありがとね」 ツッキーは目を背けて、頬を赤らめ、わ、私まで……!! 私まで顔が赤くなっている気がする。 「頑張ってね!」 私は全力で去る。足が痛くならない程度に階段を駆け上がる。今ツッキーと一緒にいられない、恥ずかしい!照れる! 彼女っぽいことしたの初めてだ!! 今から平常心でバレー見れるかな… ----------------- 管理人から! 「もう一度、そこで」シリーズはこれでおしまいです!おそらく!← 最後に甘酸っぱい雰囲気を出したかったです(笑) この子達は中々正直になってくれないので… 今までお付き合いいただきありがとうございました! 2016.2.19. [←] [×] [back] [TOP]
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