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『ぅわ…』




連れてこられたのは大きな豪邸。っていうか並盛にこんなおっきなお屋敷があるなんて今まで知らなかった。そもそもここってまだ並盛なのかな?結構長いこと車に乗ってた気がするけど…。




「ここは俺たちファミリーの日本支部だよ。まぁ、本部はイタリアなんだけどね」

『イ、イタリア!?』




さっきはマフィアがどうとか言ってたけど、今度はイタリア!?この人ホントに何者!?




「あぁ、自己紹介が遅れちゃったね。俺はボンゴレファミリー10代目ボスの沢田綱吉。よろしくね」

『いや、よろしくねって…あんまりよろしくしたくないんですけど。ていうかそれ最初に言うべき事でしたよね!?』




はじめから変な事ばかり言ってると思ってたけど、どうやらこの人の言ってることは本当らしい。こんなに大きなお屋敷とか見ちゃうと本部がイタリアにあるっていう話も信じそうになる。とりあえず私にはスケールが大き過ぎてついていけない。

でもそれとこれとは話が別で、自己紹介ははじめにしておくべきだったと思う。例えそれが今みたいにやっぱり聞かなければよかったとかいう内容だったとしても見ず知らずのしかもマフィアとか言っちゃう明らか不審で危険そうな人に連れてこられた私の身にもなってほしい。




「仕方ないじゃん。君を連れて来ることが最優先だったんだから。それにあの時言ってもどうせ逆効果でしょ」

『それはそうですけど…って違いますよね!?どっちにしろ連れてくる気満々でしたよね!?忘れてたの誤魔化さないでくれます?』

「チッ、バカなくせに余計なトコ鋭いね」

『あなたにバカって言われる筋合いないんですけど!?』




何なんだいったい。初対面の人にバカだなんて言われたのはじめてだ。腹立たしいことこの上ない。なんて怖いから言わないけど。




「声に出さなくても伝わってるけどね」

『プライバシーの侵害ですよねそれ!?』




とんでもないところにスカウトされてしまったと今更ながらに思った。ずっと目立たないように静かに生きてきたのに。とんだ世界に入り込んでしまった。こんなの非凡過ぎる。…現実逃避してもいいかな?




「ダメだよ」

『いやだからプライバシーの侵害ですよねそれ!?』




もうやだホントに。盛大にため息を吐くと、私の目の前に沢田とかいう人…じゃなかった。ボス様の沢田さんがずいっと手を突き出してきた。




『…何ですかこの手?』

「とりあえず、仕事の連絡が取れないと困るから。携帯」

『携帯?』




一瞬首を傾げかけたけど、すぐに連絡先を教えろといわれていることを理解する。




『や、やですよ!!何でこんな得体の知れない人に…あ、いや大体仕事って何ですか!?』

「えっと、赤外線通信っと」

『って!!いつの間に!?』




気が付くといつ取られたのか、沢田さんが私の携帯を手に自分の携帯にデータを送信しているところだった。




「じゃあ、何かあったら連絡するから」




沢田さんはそういいながら用事のすんだ携帯を私の方に放って寄越した。私はそれを慌ててキャッチしながら恐る恐る質問する。




『な、何かって何ですか?』

「だから、仕事」

『んな物騒な!!』

「そんな危険なことはやらせないから」

『うそ!!』




そもそもマフィアと聞いて普通の仕事があるとは誰も思わないだろう。昨日の人たちみたいにこの国では持ってちゃいけないモノでドンパチやらかすようなイメージは決して私の偏見とかではないと思う。




「さっきから玄関先でギャーギャーうるせぇな。とっとと中に入ったらどうなんだ?」

『え、誰?』




私が警戒心丸出しで沢田さんに詰め寄っていると、お屋敷の扉がゆっくり開いた。中から文句を言いながら出てきたのは黒いスーツをビシッと着こなしスーツと同じく黒いハットを被った揉み上げのクルッとした男の人。凄いな、何であんなにクルッとしてるんだろう。面白い。




「…おい。俺の揉み上げをバカにするとはいい度胸じゃねぇか。脳天打ち抜くぞ」

『へッ!!!??』




またしても背中の凍るようなぞくっとする感覚に襲われる。いやな汗が背中を伝った。
こ、この人も心読める人!?読心術とかいう非凡なことしちゃう人!?




「あたりめーだろ」

『また読まれたー!!』

「まぁ、そんな事はどうでもいいから取り敢えず中に入ろうか」

全然どうでもよくないです沢田さん!!っていうか私もう帰ります!!さようなら!!』

「帰り道も分かんねぇヤツがどうやって帰るんだ?」

『うっ』




身の危険を感じてもうこれ以上我慢が出来なかったけど、そういわれてみればこの黒スーツの人の言う通りだ。車でかなりの距離を走ったし、現に私はここが何処かも分かっていない。この人たちのいうことを聞くしか道はなさそうだ。




「帰りはちゃんと送ってあげるよ」

『…なんか物凄く胡散臭いんですけど』

「ん?」




ついポロッとこぼれた言葉を満面の笑みで聞き返す沢田さん。後ろに見えるどす黒いものは幻覚ですか?私、目がおかしくなったんですか!?




『い、いいいいいえ!!!!なんでもありません!!よろしくお願いします!!』

「うん、任せて」




慌てて顔の前でブンブン手を振って否定する。すると沢田さんは今度は普通に笑顔で頷いて頭を撫でてくれた。ほっとしたのもあって私もつられて笑いそうになったけれど、




「…お前、バカなんだな」

『は!?』




ボソッと横で呟いた黒スーツの人のせいで一瞬で顔が引きつった。本日二度目のバカ呼ばわり。この人たちはいったい何なんだ!!失礼にも程がある。
いっぺんガツンと言ってやりたくて口を開きかけたけど、それは沢田さんの手によって遮られた。




「いいから早くお茶にしようよ。ケーキもあるよ」

『ケーキ!!!?』




沢田さんの言葉に思わずパァッと目を輝かせる。ケーキなんてここ数ヶ月食べていない。万年金欠の私にとって、ケーキは高級お菓子に分類するには十分過ぎる代物だ。ただで食べさせてくれるんだろうか。やっぱりお金持ちは太っ腹だな。




「やっぱりバカじゃねぇか」

『バカじゃないです!!』

「考えてる事がただ漏れなんだよ」

『あいたッ!!!??』




ため息とともにデコピンを食らわせられる。酷い。はじめから思ってたけどこの人たち馴々しすぎない!?よく分からないことの連続で結局この人たちの流される事になるのかと思うと逃避しようとしている今の現状なんかもうどうでもよくなってくる。

今はなるようにしかならないと、ため息ひとつで気持ちを切り換えるとケーキを貰いに沢田さんたちについて私もお屋敷の中へと入って行った。







ツナは黒いです。




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