1 「ねぇ、君ちょっといいかな?」 『はい?』 今日も今日とて平凡な日常を過ごしていた私は知らない人に声をかけられた。 声をかけてきたのは茶色いツンツンヘアのお兄さん。物腰の柔らかそうな感じのいい人だ。 「君をスカウトしたいんだけど」 『スカウト?』 スカウトだなんて、どっきり的な何かだろうか。思わず首を傾げる。私の何処を見てそんな事を言っているのか。そもそも何のスカウトだろう。 「マフィアだよ」 『マフィンですか?すみません私お菓子作りは得意じゃないんです』 「わざとだよねそれ?」 だって、何で私の思ってる事が分かったんだろうとかいつの間にかがっしり掴まれてるこの腕は何だろうとか色々考えたけど、マフィアとか非凡な言葉が聞こえたら誰だって耳がおかしくなったのかと思うじゃないか。ホントに現実ですかこれ? 「現実だよ」 『いやそこ違うって言ってほしかったです』 またしても考えが読まれた上ににっこり笑って答えられてしまった。笑顔格好いいな。思わず余計なことも考えたけど、とりあえず非凡なことには関わりたくない。私は平凡が一番好きだ。 『申し訳ないですけど何か凄く怪しげなので全力で遠慮したいです』 「あはは。面白い事を言うね。断れると思ってるの?」 『へ?』 急に雰囲気が変わったことに思わず背筋がぞっとしてしまった。さっきまであんなににこやかだったのに。何なんだいったい。私の警戒心が一気に高まる。この人黒だ!! 「黒だなんて失礼だな。笑顔格好いいとか思ったくせに」 『そこも読まれてる!!??』 これで確信した。コレはアレだ。読心術ってヤツだ!!平凡な私とは無縁の非凡な能力だ!!益々私の警戒心は高まるばかり。早くさよならしたいのにこの人のがっちり掴んで離さない腕がそれを許してくれない。 「さよならなんてさせるわけないじゃない。やっと見つけた逸材なんだから」 『い、逸材って?』 「昨日のアレ、見せてもらったよ」 昨日のアレを見ていた?黒ずくめの人に追いかけられた事だろうか。見てたのに助けてくれないなんてこの人、よっぽど弱いかとっても薄情かのどっちかだな絶対。 「喧嘩売ってるの?」 『め、滅相もない!!!!』 慌て首をブンブン振って否定する。そんな、人に喧嘩を吹っかける程の度胸を私は持ち合わせていないし、さっきの背筋がぞっとする感覚を思い出すととてもじゃないけど無理だった。 「一緒に来てくれるよね?」 『え、誘拐ですか?』 「失礼な。同意の上でだよ」 『でも私に拒否権はないんですよね?』 「もちろん」 笑顔ッ!!!!笑顔が眩しいです!!でも、ここでついていったら何か取り返しのつかないことになる気がする。平凡な日常が非凡になる気がする!! 『でも、知らない人について行ったらいけないって学校で習いました』 言い訳でもして逃げてもいいかな。 「言い訳って最初に言ってる時点でもう終わってると思うんだよね」 『いや、言ってないですよね!?思っただけで!!』 「やっぱり思ってんじゃん」 『やっちゃったぁ!!』 自分からバラしちゃったとかアホでしょ!!バカでしょー!! 「往生際が悪い子だね。もうどうでもいいから早く行くよ」 『そこどうでも良くないですよね!?それに行くって何処に…』 「いいからいいから」 『いくないですー!!』 とりあえずよく分かんないけど私はこの茶色のツンツンヘアなイケメンさんに黒い高級そうな車に押し込まれて何処かへ連れていかれることになってしまいました。 NEXTあとがき Back |