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僕はいつまでこうしているつもりだろう。もうかれこれ5分はここにいる。ちょっと会いたくなっただけなのだが、紗佳の部屋の前でいつまでもうろうろしていたらまるで不振者みたいだ。しかし、特に用があったわけじゃないからノックするのを躊躇してしまう。
すると、目の前のドアが突然がチャリと控えめに開いたから思わず驚いてしまった。




『マーモン』




ドアを開けたのは当然この部屋の主で、にっこり笑って僕を見下ろした。




『いつまでもドアの前にいないで入ってきたらいいのに。お茶、入れたよ』

「ム。いつから気付いてたんだい?」

『うーん?』




彼女は可愛く首を傾げて、お茶を入れる前だから5分くらい?と曖昧に答えた。それじゃあ本当にはじめからじゃないか。今まで部屋の前でうろうろしていた自分が馬鹿らしくなって、はぁとため息をつくと苦笑いされた。




『これでも一応暗殺者の端くれなんだけどな』




気配くらいわかると言いたいのか、少しむくれた顔をする。何も君の事でため息をついたんじゃないんだけどね。




「何を言ってるの。端くれどころか紗佳はかなり優秀な方だと僕は思うね」

『そう?ありがとう』




お世辞ではなく、彼女の実力はヴァリアー全員が認めている。でなければ、男ばかりのむさ苦しいこの場所で紅一点である紗佳が幹部の一人としてやっていけるわけがない。




「紗佳」

『なぁに?』

「お茶、飲みたいんだけど」

『そうだね。お菓子もあるよ』




一緒に食べよう、と僕を抱きかえると部屋へ招き入れる紗佳。大きく開いた扉の向こうから香った匂いに僕はきゅっと彼女の服を握った。




「ム。この匂い…」

『レモネードだよ。ホットだけどね。マーモン好きでしょ?』




本当に何処までも気の回る子だ。覚えていてくれたことも、わざわざ自分のために入れてくれたことも、マーモンには嬉しかった。
普段はお金お金と金儲けの事しか考えていないような顔をしているが、彼女といる時はそんなガツガツとした雰囲気は鳴りを潜め穏やかなものだ。




『今日は折角の休暇だものね。ゆっくり過ごそう』

「そんなこと言っても、一日の半分以上はもう終わってるけどね」

『いーのいーの。午後のティータイム、素敵じゃない』




ウキウキとお菓子の準備をする後ろ姿を眺めながらソファで待つマーモンにそう言う彼女は暗殺者とはとても思えない。
レモネードとクッキーの入った皿をトレーに乗せて、テーブルに運んできた紗佳はいそいそと僕の隣に腰掛けた。




『はい、どうぞ』




渡されたレモネードのカップを両手で持って、ふうっと息を吹きかける。コクリと飲むと体がじんわりと暖まった。ほっと息をはきだして肩の力を抜くと、




ぷにっ

「…」

ぷにぷに




「何してるんだい」

『え?マーモンのほっぺが可愛いなぁと思って、つい』




紗佳の指が僕の頬をつついてきた。折角レモネードを満喫していたところだったのに。




「そんな事するなら僕は帰るよ」

『え、やだ。ゆっくりしてってよ。いいじゃないちょっとくらい。本当に気持ちいいんだもん』




そういうと紗佳は僕を抱き上げて今度は頬摺りをしてくる。




「はぁ…仕方ないね」




まぁ悪い気はしないし、いいかな。でも、今日だけの特別だからね。心も体もぽかぽかとしたそんな穏やかな昼下り。















ゆっくりしてって
「もういいかい?」
『んー、もうちょっと』
「…」


NEXTあとがき





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