3 事故で済まされる範囲をとうに超えて、誰が見てもこれは完全に押し倒されている状態だ。 『な、何すんの!!』 「…ロマーリオ」 「なんだ。ボス?」 まるで私の声なんて聞こえてないみたいに振る舞うボスにちょっと腹が立つ。ロマーリオも普通に応えてないで助けてってば!! 「この書類はお前が届けに行ってくれ」 『ちょ、何でよ!!』 たいした効果はないけど細やかな抵抗を試みる。が、ボスに押しつぶされるという事態をなんとか免れた書類は組み敷かれた私の手からいとも簡単にひょいと奪われ、奪った本人はロマーリオにそれを差し出した。差し出された方も、何事もなかったかのようにすんなり受け取る。 『ロマーリオまで!!私の仕事取らないで!!』 「紗佳は俺の秘書だろ。大丈夫、仕事なら他にまだたぁんとあっからさ」 『そういう問題じゃないわよ!!』 喚く私にはお構いなしにボスはロマーリオに指示を出すとさっさと用事を済ませに行かせてしまった。 ロマーリオはロマーリオで、去りぎわに頑張れよってウインクしてきたし。頑張るって、何をよ。っていうか、 『信じらんない!!ボスはロマーリオがいないとダメダメなんだから、彼を行かせちゃ仕事がはかどらないじゃない』 本当に何を考えているんだこの人は。 「他の部下を傍に呼ぶから平気だって」 『でも…』 「そんな事より、紗佳」 『な、何よ』 「いつから俺よりスクアーロがよくなったんだ?ん?」 『はぁ!?な、なな何言ってんの!?っていうか近い!!顔近いから!!』 突然何を言いだすのかと思えば、不満さを全面に押し出してずぃっと顔を近づけて聞いてくるボス。目が据わってる。何で?私、何かしたっけ? 「なぁ、どうなんだ?」 『い、言ってる意味が分からないんだけど!?』 第一、ボスが自分とスクアーロを比べたがる意味がわからなし、比べるようなものでもないと思う。大体、だだの昔馴染みと恋人を比較するなんて対象が違いすぎて論外だ。 「じゃあ、何でそんなにスクアーロに会いたがるんだよ?」 『それは、ルッスから電話があってスクアーロが会いたがってたわよって言ってたし、ちょうどいいかなって…』 「だからって…」 『そもそもヴァリアーの書類管理はスクアーロがやってるんだから彼に会いに行くってことで間違ってはないと思うけど?』 「…ホントにそれだけか?」 何がそんなに気に入らないのか、怪訝そうに聞いてくるボスに少し呆れる。私がスクアーロに心移りしたとでも思っているのだろうか。そんな事、あるわけないのに。でも、そんな風に自分の事で彼の心が動くのを感じられるのは悪くない。 『ディーノ』 「ッ////」 プライベートでしか決して呼ぶことのない彼の名前を呼んでやると、驚いたのかビクリと肩を揺らして私を押さえ込んでいた力が緩む。緩んだところから自分の手を引き抜くと、そっと彼の頬に触れた。 『あのね。好きよ』 「え!?」 めったに言うことのないセリフにたじろぐディーノ。いつもは恥ずかしいからこんなこと言わないし、公私混同しない主義なのを理由に人前でベタベタすることを避けてきたけど。本当はいつもあなたを一番に想ってるんだよ。 『私にははじめからディーノだけ。だから、安心して?』 顔にかかった綺麗な金色の髪をサラリと後ろへ流しながら言い聞かせる。 「…紗佳」 格好いいくせに子供みたいな顔をするからついつい甘やかしてしまったけど。こういうのもたまにはいいかもしれない。 大きな手が私の頬を包んで彼の顔がゆっくりと近づいてきた。閉じられる瞳にあわせて私も目を閉じ唇にかかる吐息を感じる。 そして、後少しで重なり合うというところで、突然地響きがしたかと思うと耳をつんざくような鳴き声と共に瓦礫が降ってきた。 「ッどわぁ!?」 『ディーノ!?』 その直後、物凄い勢いで私の上からディーノがいなる。自由になった体を起こして漸く事態を把握した。 存在をすっかり忘れていたけど、そういえばディーノが落ちてきたのはもともとこの子のせいだ。なんとか事態は収拾したものの、その時の私はこの子のことを失念自分の馬鹿さに対する呆れも含めてエンツィオに吹っ飛ばされたディーノをただ唖然と見ることしか出来なかった。 それからしばらくして、私が書類を届けなかったことでスクアーロから文句の電話がきたことは言うまでもない。 あのね。 「う"お"ぉい!!どういう事だぁ!!」 『ごめん。ディーノが拗ねた』 NEXTあとがき Back |