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…負けた。
何でだろう凄く女として負けた気分だ。

私の彼氏はテニスの強い生意気なルーキーらしいけど、あの猫目の可愛さは異常だと思う。三白眼とかいうやつにもなるらしいけど、平凡な私とはどうしたって釣り合わない。あんな可愛さ、私にはないもん。




『…はぁ』

「娜乃?」




帰りのホームルームが終わって教室が騒がしくなったにもかかわらず、私の溜め息を聞き逃さなかった越前くんが理由を聞いてくる。すごいな。あんたの耳は地獄耳か。まぁ、隣の席だし聞こえても不思議じゃないか。




『んー?越前くんは可愛くていいなぁ、と思って』

「何それ。全然嬉しくないんだけど」




理由を聞いてきたのはそっちなのに越前くんはあからさまに不機嫌な顔になってガタンと椅子から立ち上がった。しかもそのままテニスバッグを肩に引っ掛けて教室から出ていこうとする。




『部活行くの?』

「…」




まだ根に持ってるのか、返事はないけど、教室のドアの前で立ち止まる越前くん。そんな彼を不思議そうに横目で見ながら部活に行くのであろうクラスメイト達が追い越して、教室からはどんどん人がいなくなっていった。堀尾くんが何か言ってたみたいだけどスルーされてた。ちょっとかわいそう。




『じゃあ、待ってるね』

「遅くなるから」

『いいよ。宿題やってるし』




言葉を続けると今度はちゃんと返事が来た。静かになった教室では離れていても普通に声が届く。大会が近いからテニス部は今すごく気合いが入ってるらしい。遅くなるのは当然だ。それを気にしてくれるなんて。私が待っていたいだけだからそんな事気にしなくていいのにな。まだ私たちは付き合って数日しか経ってないけど越前くんのそーゆーとこは優しいと思う。




『そういえば私、越前くんがテニスしてるとこって見たことないな。今日、見に行ってもいい?』

「ダメ」

『即答!?何で!?』

「いいから。来ないでよ」

『ぶー。越前くんのケチー。いいじゃん別に』




くるっと振り向いた越前くんにキッパリと断られてちょっとむっとする。ふと思ったことを口にしただけなのにあんなにあっさりと切り捨てられるとは。いくらなんでも酷いと思う。




『…もしかして越前くん、私が彼女だって思われるの嫌なの?』

「は!?」

『そりゃ、私は越前くんみたいに可愛くけど…』

「…はぁ。だから、それ全然嬉しくないんだけど」




あ、嫌われたかな?でも、やっぱり越前くんは可愛いと思う。それに可愛いだけじゃなく、越前くんの猫目は吸い込まれそうな程綺麗でずっと見てても飽きない魅力的な目だ。うん、やっぱり負けてる。可愛さでも魅力でも負けてる。何で越前くんは私を選んでくれたんだろう。じぃっと見つめているとまた溜め息をつかれた。




「…娜乃、俺のこと男だと思ってないでしょ」

『え?思ってるよ?』

「じゃあ、可愛いとか言わないでくんない」

『えぇ〜』




だって本当に越前くんの猫目は可愛いのに。彼は自分の可愛さに気付いていないんだろうか。思わず首を捻っていると、今までずっとドアのところにつっ立っていた越前くんが私の方に戻って来た。目の前に来た彼を見上げると彼も少し身を屈めて座っている私の目を覗き込んでくる。その目を見てドキッとした。そこには可愛さなんて微塵もなくて。体が一気に熱くなる。え、何これ。
どうしていいのか分からなくなっていると、越前くんがフッと笑った。




「…可愛いのはあんたの方だって、そろそろ気付いたら。柚樹?」

『えっ?……ッ!!?』




あっという間だった。スルッと頬を撫でた手が私の後頭部を引き寄せたかと思うと、何かやわらかいものが唇にふにゅっと当たってすぐに離れていく。




「じゃあ、また後で」




そういうと、越前くんは真っ赤になった私を残して今度こそ本当に部活に行ってしまった。参った。可愛いだなんてとんでもない。

私の彼氏はすっごくかっこいい猫目でした。














猫目な彼氏
(これじゃ、部活見に行くどころじゃないな。顔が見れない////)
(そんな可愛い顔、先輩達に見せられるわけないじゃん)


NEXTあとがき





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