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彼女はあれから毎日ここに来るようになった。名前は娜乃柚樹。今まで関わりがなかったから知らなかったが、クラスは2つ隣だったようだ。
はじめの印象は比較的サバサバした感じの子。女子なのにサッカー部に入っている紅一点らしい。短く切られた髪が風に揺れ、少し日焼けした肌が健康的な男っぽい子だと思っていた。




『これ、可愛いね。何ていう花なの?』

「それはブルガリスっていって桜草科の花だよ」

『へぇ』




でも、こうやって愛しそうに花を指で撫でている姿は紛れもなく女の子だ。ここ数日で知ったことだけれど、男の子っぽい容姿とは裏腹に彼女は意外にも可愛いものが好きなんだなぁと思っていると、




『実は私、前からガーデニングには興味があったんだぁ。いつか自分の家を持った時に可愛いお庭、作りたいの』




と、タイミングよく楽しそうに彼女がそんな事を話すものだからつい笑ってしまった。




『あ、今似合わないって思ったでしょー』




ちょっとむっとして口を尖らせてるが、赤い顔のせいで可愛らしく見えてしまう。そしていつの日か、俺はこうして娜乃と休み時間を過ごす事が毎日の楽しみになっていた。娜乃が笑うと俺も笑う。普段も移動の時などに彼女の姿を探すようになった。




「幸村くん最近楽しそうだよね」

「そうかな?」




それから何日かしたある日、部活中ふと丸井にそんな事を言われた。自分ではそんな風に思っていなかったけど、彼が言うならそうなのだろう。だとしたら、思い当たるのは一人。




『幸村くん』

「!?」




思いもよらない本人の登場に驚きつつも、俺は急いで自分を呼ぶ彼女のところへ駆け寄った。




「どうしたの?初めてじゃない、娜乃がテニスコートに来たの」

『うん、さっきそこで先生に呼んでこいって頼まれて』

「そう。ありがとう」

『ううん。じゃあそれだけだから』




短い言葉を交わしただけだったけど、手を振ってグラウンドへ走っていった娜乃を手を振り返しながら見送っていると、何故か仁王にニヤニヤされた。
でも、今日はちょっと気分がいい。明日の休み時間が楽しみだ。

その時はこんな穏やかな日がずっと続くと思っていたが、その年の冬に病気で入院することになった俺は娜乃に会うことが出来なくなってしまった。




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