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たこ焼きという言葉を聞くと案の定。遠山くんは目をキラキラと輝かせた。




「ほんま!?柚樹おおきに!!ほな行くで!!」

『え、今から!?』

「せや!!」




確かにもう放課後だけれど、まさか今すぐ行くなんて考えてもいなかった私は咄嗟に反応できなかった。でも、遠山くんはあっという間に私の手を取ると制止の声をかける間もなく走りだしてしまう。




『ちょっと遠山くん!!部活は!?』

「そんなんたこ焼き食べてからや!!」

「金ちゃん?」




すると、誰かが遠山くんを呼ぶ声がした。かけられた声にキキーッという効果音が付きそうな勢いで止まった遠山くん。廊下を下駄箱に向かって疾走していた私たちの前に現れたのはテニス部部長の白石先輩で、私には彼を止めてくれた先輩が救世主に見えた。




「げっ白石!!」

「金ちゃんこれから部活やっちゅうのに何処行くん?」

「たこ焼き食べに行くんや!!」

「あかん。部活やで、金ちゃん」

「いやや!!わい、たこ焼き食いたい!!」

「ほな、金ちゃんは死にたいん?」

「ぅわっ毒手はいやや!!」




救世主が現れたと思ったものの、よく分からないけど左手の包帯を解く振りをする白石先輩に怯えている遠山くん。助かったと思ったのも束の間で、先輩とのやり取りを見ていたら何だか少し可哀相になってしまい、つい声をかけてしまっていた。




『遠山くん。待っててあげるからさ、部活はちゃんと出よう?終わってからたこ焼き食べに行こうよ。ね?』

「…柚樹」

「柚樹…?あぁ、すると君が噂の娜乃柚樹ちゃんか?」

『え、ぁはい。そうですけど、噂って?』

「いつも金ちゃんの世話してくれてんのやろ?おおきに」




最早私が遠山くんのお世話係みたいになってる!?
白石先輩の言葉に私は大きな衝撃を受ける。転入早々噂になる人ってどうなんだろうか。思わず頭を抱えたくなった。そんな心境が顔に出ていたのか、私を見た白石先輩がぷっと吹き出す。酷い。




「すまんすまん。あんまり可愛いかったんでつい、な」

『…はい?』




ニコニコしながら私の頭をぐりぐり撫でてくる白石先輩。今、可愛いっていいました?どうやらこの人もちょっと変わっているらしい。理解に苦しむ。
渋い顔をしながらとりあえず頭を撫でられていると、今まで黙って私と白石先輩のやりとりを見ていた遠山くんが急に間に割って入って来た。パシッと音を立てて白石先輩の手を振り払う。




「柚樹はわいのや!!白石触ったらあかん!!」

『は!?』

「なんや?柚樹ちゃん、金ちゃんの彼女だったん?」

『え、違いますけど…』

「これからなるんや!!」

『はぁ!!?』




何を言いだすのかと思ったらまさかの爆弾発言に思わず大声を出してしまった。白石先輩も少しびっくりしている。




「あんな、金ちゃん。そういう事はまず告白して柚樹ちゃんの気持ちを聞いてから…」

「告白なら毎日してるで!!な、柚樹!!」

『え…』




あれ、本気だったんだー!?
普通に受け流しちゃってたよ。え、どうしよう。遠山くんが本気ならこれは真面目に答えなくちゃダメだよね。でも私…遠山くんのこと、どう思ってるんだろう?




「ほら、金ちゃん。柚樹ちゃんも困ってるで?」




黙り込んでしまった私を見かねて白石先輩が遠山くんに声をかけてくれた。遠山くんはなんか凄く不満そうだったけど、私はそれどころじゃなくて白石先輩に連れられて部活に行く彼をただボーっと眺めるだけになってしまった。




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