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『あ、そうそう。ブン太、この前食べに行って美味しいって言ってたスイーツショップ覚えてる?』




口をモグモグさせながら、当初の目的であったと思われる話を始めた柚樹。あ、そうそう。って忘れかけてたのかよい。だが、スイーツショップのことなら勿論覚えていたからすぐに返事をする。




「もち!!あそこはマジうめーよ!!ホント柚樹はそーゆー店見つけんの上手いよなぁ」

『でしょー?それでね、その店で今度新作が出るのッ!!!!今週末食べに行かない!?』




楽しそうに話す彼女にこっちまで嬉しくなってくる。しかも新作とは是非とも行きたい。が、




「わりィ。今週末も部活あんだわ」

『もー、またぁ?ブン太は部活とスイーツどっちが大事なわけ!?』

「いや、そこは普通に部活だろい!?」




思わずビシッと突っ込みを入れると、柚樹は笑ってわかってるよと言った。そして、




『大会近いんだもんね。頑張れ』




そう笑顔で言って俺の肩を軽く叩くと、ひらひらと手を振って教室を出ていった。彼女のあぁいったサッパリしたところが気兼ねなくていいと思う。




「娜乃って明るいよな」

「おう」




柚樹が出て行ってから、一部始終を見ていた友達がポツリとそんな事を言うから俺は大きく頷いた。だからあいつといるといつも楽しいんだ。でも次に出た言葉に面食らう。




「可愛いよなー」

「は!?」

「なんだよ。知らねーの?娜乃って結構人気なんだぜ」




思わず聞き返したらそんな風に言われ、しかも、な?と彼が同意を求めたヤツも当たり前のように頷いている。




「…マジでか」




これはもしかして、いや、もしかしなくても柚樹には彼氏がいたりするんじゃないだろうか。




「いないぜよ」

「うわっ、ビックリした!!驚かせんなよい」

「…プリ」




いきなり背後に現れた仁王に、つい飛び上がってしまった。って、そんなことより…




「いないって、何がだよい」




もう答えは分かっていたが、一応さっき引っ掛かった事を尋ねてみる。何で俺が考えてた事が分かったんだ?エスパーか!?




「何って、彼氏に決まっとるじゃろ。声に出てたぜよ」

「うぉ、マジかよ。っていうか、何でそんな事知ってんだ?」

「ピヨ」




あっさり種明かしされて自分のアホさに呆れたが一番気になるところは濁されて分からなかった。でも、




「…いないのか」




その事実に少しほっとする自分がいた。何でだ?
その時は友達としてではなく女子としての柚樹をはじめて意識させられたからだとそこまで深く考えはしなかった。しかし、早くもその日の午後には嫌でも考えざるを得ない状況が訪れることになる。

昼食を食べ終えて、丁度眠くなる時間帯。先生の声を右から左へ聞き流しながらグラウンドの方を見ると体操着姿の柚樹を見つけた。この時間、彼女のクラスは体育らしい。でも、クラスの男子と楽しそうに話をしている柚樹を見ていたら何だかモヤモヤとしたものが沸き上がってきた。何だこれ。

消化不良を起こしたそれはずっと続いて、その日の放課後は部活に身が入らず幸村くんに怒られた。




思えば、柚樹に彼氏が出来たら今までみたいな付き合いは出来なくなるんだよな。そりゃやっぱり彼氏がいるのに他の男と遊びに行ったらまずいだろうしわざわざクラスを越えて会いに来ることもなくなるだろう。何だか凄く嫌だ。

新作のお菓子を交換するのも、スイーツショップ巡りをするのも、話をしたり遊んだりするのも柚樹と一緒じゃなきゃ楽しくない。…俺、




「好き、なのか…?」




自分でも今まで気付かなかったのがおかしいくらいだ。こんなに判断材料が揃っていたというのに。自分の鈍さに思わず笑ってしまった。




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