モンスターペアレント ※拓と蘭が幼なじみ設定 拓の過去捏造
小学生までは管楽器もかじっていてクラリネットが得意だった、と彼は入学当初緊張した面持ちで声を絞り出していた。何週間か後に何故吹奏楽部に入らなかったのかと聞くと、音楽ばかりやっていたせいで幾分ひ弱な体になってしまったらしい。本業のピアニストも体力勝負だからって、と彼ははにかみながら同じく今年入部してきた桃色お下げの少年を指差した。 「サッカー部に入って、後悔なんてしてません」 いつもはひどく儚げに笑う神童が、その時は心から嬉々としていたようだった。
「僕には…僕には何も出来ない…」 「落ち着け神童。大丈夫だよ」 「何でもできる先輩に言われたくない!先輩は僕とは違うんだ!!」 「何でも完璧にこなす奴なんていないよ」 「嘘だ!僕は…僕は!」 倉庫裏で先輩が神童を慰めているらしいと情報が入ったのはつい五分前のことだった。何事かと野次をいれに来た訳でもなし、神童は人を惹き付けるカリスマ性のようなものがあるのか。やはり自分は野次馬以外の何者でも無いことを、今持っている少なすぎる情報が物語っていた。 今年、サッカー部に入部して、フィフスセクターの制度に絶望した一年生の三分の一は他の部活に転部していった。おとなしいながらも一年生の中でリーダー格だった神童は、何とか退部していった仲間を呼び戻そうと影でフィフスセクターを探って敢えなく撃沈したらしい。その為雷門にペナルティが与えられ、ある大会での雷門の全敗が決定してしまった。 素直だな、と思う。 自分のためじゃなく、部活全体の安定のために己の身を危険に晒して調査を行ったのだ。ものがものだが自己犠牲の精神は尊敬にあたる(ペナルティは想定していなかったようだが)。 だけど、神童は神童を卑下しているのだ。どんなことがあっても彼は三歩下がることを忘れない。例えヘマしたのが先輩であっても。だから三年生は彼が可愛いのだと思う。 そして、俺も。 だから過保護気味になってしまうのではないかということに、俺は気がつくのが遅すぎたんだ。暗い倉庫の中で、焦げ茶と灰色の中間色が項垂れているのが分かる。 「神童」 「三国…先輩?」 (よかった、覚えられていたみたいだ) 言葉が勝手に唇をなぞって、滑り落ちていく。 「神童。俺ができることは、出来る限り力になろう。雷門サッカー部をここで終わらせる訳にはいかないからな」 少なくとも建前ではない。自分で選んだ部活を最後まで応援したいという気持ちは偽りでは無いはずだ。 「え…」 けれど。
「だからもう、一人でこんなことするな。お前と同じことを思っている奴等はたくさんいるんだ」
どうしてこんなに詭弁に聞こえるのだろう。
「せんぱ…」 そうすると、ようやく神童は火がついたように泣き出した。泣きじゃくる神童を抱き寄せながら、新入生の幼なじみが神童は元々泣き虫だった、と語っていたことを思い出してようやく俺は安堵した。
今の神童に巣を作る能力は無い。彼には誰かが巣を作ってやらなければいけない。でもそうしたら彼は半永久的に巣作りの能力を失ってしまうだろう。
そうだ。そうなんだ。 わかっててやってるんだ。
「三国先輩!」 「お、どうした神童」 「必殺技、出来たんです!『フォルテシモ』って言うシュートなんですけど!」 「わかった!一回受けてみたいから先にグラウンド行っててくれ」 「はいっ!!」
わかっててやってるんだ。 だからどうか、 どうか見逃してくれ。
神童キャプテンの一年生の話。三年いなくなって三国先輩は神童の心の弱さを敏感に感じ取れるようになってきて(それまでは神童のお守りは旧三年の役割だった)、いっそ未来のために投げてしまおうかそれとも過保護に育てるか悩んでる…結局いい具合に真ん中とって育てて、二年生なって天馬が喝入れるんですが。カプ要素少なくて本当にすみません…
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