from then on いつの間にか、剣城は俺の手元を見て笑っていた。夏の公園は暑いな、と思っていたけど、アイス食べながらだったらそうでもない。カリカリ君は文明の利器だと思う。安くて美味しくて冷たい。
「松風」 「なに?」 「っつ、は」 「えっ何? 俺の顔になんかついてる?」 「こぼれてるぞ?」
みると、ぱたぱたと手元から、溶けたアイスがこぼれ落ちていた。あわててかじりつくと喉まで垂れてきて、それを見た剣城はまた笑って自分のソフトクリームを口に運んだ。ティッシュ貸すとかさあ、そういうのないの! と思った。
「もっもっとはやくいってよう」 「ぼーっとしていたお前が悪い」 「剣城のいじわる!」 「なんとでも言え」
長い睫毛をくるんと揺らしながら、彼はリラックスしたように瞬きをした。白いうなじが夏の蒸した空気と紫外線とたくさんの汗に晒されている。さっき日焼け止め塗ってたから大丈夫だとは思うけど、焼けたら真っ赤っかになるそうだ。ちょっと見てみたい気もする。
「ねえ、そっちも食べたいんだけど」 「お前あと一口しか残ってねえだろ」 「剣城に全部あげるよ。それでいいよね?」 「俺はけして量のことを言ってる訳じゃ」 「わかってるってえ」
だいぶ脆くなったカリカリ君を剣城に差し出すと、彼も半分なくなったソフトクリームを俺に預けた。高そうな味のわりに値が張らないが、カロリーを気にする女子は好かないんだろうなあと思った。おいしいのに、もったいない。
「うわっ」 「落とした?」 「いや、抜けそうになった。棒から」 「頑張って食べてー」 「頑張るも何もねえよ」
いをけして一口で食べきった彼の白い喉に、アイスの溶けたのが伝う。それは鎖骨と鎖骨の間を通って、黒いTシャツの中に消えていった。彼は首もとの生地を掴んで強引に拭き取ったが、もう汗と混じって訳のわからないことになっているだろう。 だめだ。他のこと考えよう。
「あっ」 「どした?」 「あたりだ」 「マジ! ほんと!」 「ああ」
剣城から返されたアイスの棒には、小さな文字で「当たり」と掘られていた。さっきちらと先っぽを見たときは、そんなもの見当たらなかったのに。とうの剣城を見ると、もうソフトクリームを食べ終えて、俺の持ってる棒を凝視している。
「今貰いにいくか?」 「……あげる! 剣城に!」 「え?」 「俺さっき見たときはなかったもん! きっと剣城に食べてもらったから当たり出たんだよ」 「な……んだそりゃあ」 「そうそう、だからもらってよ!」 「いや意味わかんねえよ。仮にそうだとしても、第一これ買ったのお前だろ」 「うーん、そうなんだけどね」
そう言うと剣城はぽっと出たみたいに笑って、足元の砂を蹴って、またいつもの表情に戻った。お前が俺にアイス食べてほしいがために嘘をついてるんだろ、てな顔をしている。違うんだ、ほんとにさっき当たりなんか無かったんだ。
「……わかった」 「よしオッケー! 替えにいこう!」 「そのあたりと他にもう一本買うぞ。お前のぶんだ」 「へ?」 「割り勘で」
まだまだ日は高い。短い命の光を際立たせるように、蝉の鳴き声はいっそう地響きのように公園全体を揺らす。無風だ。世界全体が無風のように思えるほど、静かな酸素が流れている。
「たった何十円だけど?」 「俺がしたいんだからさせてくれ」 「……剣城ってたいがい変だよね」 「……天馬に言われる程じゃねえ」
立ち上がった彼の背中は汗でびっしょりだった。多分俺も同じだと思う。ポケットの中からちゃりんちゃりんと声がした。コンクリートの地面には陽炎がはりついている。剣城の腕にすりつくと、彼は「暑いからやめろ」と言った。ふうん、暑くなくなったらいいんだ。
夏になるとアイスの話がかきたくなります。 ちなみに私の近所のスーパーマーケットでは〇リ〇リ君47円で売ってます。割りきれなくてもめる天京が目に浮かびます。 タイトルは「それから」
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