ヘヴンズゲート 柔らかな朝の陽射しは、きっと俺の部屋のものとはかけ離れている。真ちゃんちにあるものは、みんながみんな高尚で格式高いもののように見えるのだ。それは既製品や百円均一で買ったと思われるものでも例外はない。それは俺が真ちゃんに対してひどく妄信的だから――だ。恐らくは。
「裸で寝落ちとかあっぶねーことするよなあ……俺ら」 「起きたかバカ尾」 「真ちゃんこそ」 「ふん、見えていたくせに何を言うのだよ」
シーツに体をうずめていた緑間(狸寝入りだった)は、高い鼻を鳴らしてそっぽを向いた。どうやら醜態を晒したまま眠りに落ちてしまったのが気にくわないらしい。家の人にこんなところ見られたら大変だ。でもまだ早朝ではある。今日が始まってから五時間も経っていないうちに俺たちは目をさましてしまったのだ。
「どうしてくれんだよー真ちゃあん。俺らもうパッチリだぜ」 「どうして複数形にする」 「真ちゃんもだろンァイダッ!」 「朝からピーピーと……」
真ちゃんちからのぞく梅雨明けの空は、いつも晴れていて暖かい空気を運んでくる。真ちゃんちに泊まった時はいつもそうだ。大体は一緒の布団で寝落ちして(ちゃんと緑間ママが布団持ってきてくれて真ちゃんはそこに寝てるんだけど、大体そっちに俺が潜り込みに行くからベッドは使ってない)、起き抜けには大体太陽が見えている。
「おい、服を着ろ高尾」 「服着たら二度寝していい?」 「二度寝など許さん!」 「ほらやっぱり目パッチリじゃんか」
持ってきたジャージを着終わる頃には、真ちゃんはもう布団を片付けていた。今日も部活だからしょうがない。これからランニングにでも駆り出されるのだろう、袖に腕を通し始めた真ちゃんはもう完全にいつもの真ちゃんだった。
「おは朝始まるまでには帰ってくるコース?」 「そうに決まってるのだよ」 「っはは、じゃあお供しますかいエース様」 「分かりきったことを再三言うな」
そろそろと真ちゃんの部屋から一階に降りる。緑間パパも緑間ママもまだ起きていないことに胸を撫で下ろす。息子とその友達が裸で抱きあって寝てるのなんて万が一にでも目撃したら、きっと失神してしまうだろう。俺だって親ならそうなる。
「おい高尾」 「ん? どした?」 「……お」
先に靴を履いた真ちゃんは、俺が靴紐を結ぶのをまじまじと眺めている。真ちゃんちの玄関はきれいだし広いから、男二人詰め込んでもあまり狭くないのがいいところだ。そしておってなんだ。高尾のお?
「お?」 「……はよう」
自分で言っといて照れるような言葉かなあとは思うけど、そういえば言われてはいなかった。あいさつ忘れててそのままのこと、たまにあるけど、真ちゃんって真面目だからそういう訳にもいかない。
「おう、おはよう!」 「うるさい」 「なんで!?」 「さっさと行くぞ高尾」 「理不尽なまま流された!?」
そっと、観音開きの扉を開ける。生まれたての朝の光が、足元に射し込んでいた。
緑高の日おめでとうございます 彼らのおはようからおやすみまでを見守り隊
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